今年もまた、投打の二刀流で次々と金字塔を打ち立てた。米大リーグの5シーズン目を終えたエンゼルスの大谷翔平選手(28)。投手で15勝9敗、防御率2.33、219奪三振、打者では打率2割7分3厘、34本塁打、95打点で11盗塁を決めた。一投手、一打者の成績としても優れているのに、一人で両方というのは超人的だ。ベーブ・ルース以来の「2桁勝利、2桁本塁打」を高いレベルで成し遂げ、新たな伝説をつくった。
歴史的な偉業は続いた。ワールドシリーズが始まった1903年以降の大リーグで初めて、一人の選手が同一シーズンに投手の規定投球回数と打者の規定打席をクリア。野球史で誰も想定していなかったようなケースを、メジャーの舞台で日本人選手が実現させた。投げて打って、さらには走ってと躍動。多くのファンを魅了し、驚かせた。そんな大谷の奮闘ぶりを追った。(時事通信ロサンゼルス特派員 峯岸弘行)
労使交渉が長引いた影響により、約1カ月遅れでキャンプインとなった2022年。大谷は3月中旬、今年最初の記者会見で「全員が健康でフルシーズンを戦うこと。それができれば、プレーオフが見えてくるのかなと思う」と話した。個人としては「しっかり先発ローテーションの一人として投げ抜くこと。その数が増えれば、いい成績が残ると思う」と抱負を語った。結果的に、チームは思うようにいかないシーズンだったが、自身は設定した目標をクリアしたと言えるだろう。
今季から大きく変わったのが、通称「大谷ルール」の導入。先発投手と指名打者(DH)を兼務でき、降板後もDHで試合に残れるようになった。投打の二刀流選手のために大リーグ機構(MLB)が採用した新ルールだが、実際に活用するのは大谷だけ。「個人的にも、チーム的にもすごく大きい。たとえ自分が打たれたとしても、その後に打席で取り返すチャンスがあるというのは、また新鮮なところ」と歓迎した。
「今は自分しかいないが、この先増えてくれば、恩恵を受ける選手が出てくる。幅も広がる。ありがたいなと思ってやらせてもらっている」。大リーグ全体にとっても意味のあることだと強調した。ただ、どこまで試合に出続けられるかは、誰にも分からなかった。加えて、今季は登板の前日と翌日もDHで出場するケースが目立った。体力的、精神的に厳しい環境での挑戦。それでも、けがなどで離脱することはなく、いつしか毎日プレーするのが当たり前に。そして見事に、最後まで「完走」した。
なかなか先が読めないオフを過ごしながら、自主トレーニングを順調にこなし、キャンプからオープン戦まで、充実した表情で過ごした。メジャー5年目で初めて開幕投手に指名され、「すごく光栄なこと。1戦目を取るか取らないかで流れも変わると思うので、(アストロズとの)4連戦のアタマを取れるように集中して、ゼロに抑えたい」と意気込んだ。
4月7日。気合十分で開幕戦のアストロズ戦(アナハイム)に臨み、五回途中まで投げて1失点で黒星を喫した。「結果的に負けたので、そこが全て」。それでも、初戦から直球の最速は160キロを超えるなど、力強い投球を見せた。
打撃で試行錯誤も
4月20日のアストロズ戦(ヒューストン)で6回1安打無失点、12奪三振の快投を披露。「試合の中で(相手打者は)何が一番打てないか、反応もそうだけど、考えて投げた」。強力打線を封じ込み、今季初勝利をマークした。
打者としては、シーズン序盤は思うようにいかず、試行錯誤する場面があった。投打の調整が必要な大谷はやるべきことが多く、コンディションも考慮すると、試合前に屋外で打撃練習をこなすのは難しい。通常は室内のケージで打ってから試合に臨むが、4月26日の試合前には珍しくバットを持ってグラウンドに。「気分転換もそう。本来は打ちたい気持ちがあるけど、なかなかローテーションで回りながら、毎試合DHで出ながらとなってくると、練習を調整して、効率よく回すしかないので」。できる範囲で修正に取り組もうとする姿勢があった。
初の満塁本塁打
打撃の状態は次第に改善され、5月9日のレイズ戦(アナハイム)では自身初の満塁本塁打を含む2打席連続本塁打を放った。どちらも大谷らしい、左中間への打球。「甘い球は基本的に中堅方向に打てればいいと思っている。調子が悪い時はそういうふうにいかないけど」と手応えのある連発だった。
特に1本目は左投手から逆方向に運ぶアーチ。「一番は構え。構えがしっかりした方向で力が伝わっていないと、(バットが)いい軌道に入っていかない。同じように打っていても、最初の構えの時点で間違った方に進んでいると、良い動きをしても、良い結果につながらない。8割5分ぐらい、構えで決まると感じでいる。投球もそうだけど、どういうイメージで打席に立っているかが一番大事」と説明した。
マドン監督解任の激震
エンゼルスは4月から5月の20連戦で13勝するなど、序盤で首位を走り、好スタートを切った。ただ、5月から6月にかけては球団ワーストの14連敗を喫し、一気に失速。その間にはマドン監督が解任され、激震が走った。二刀流に理解を示してきた監督だけに、大谷は「全てが監督のせいというわけではもちろんない。むしろ自分も調子が上がらない申し訳なさがある。お世話になったし、本当に感謝の気持ちがある」と残念がった。
6月21日のロイヤルズ戦(アナハイム)では2本塁打を放ち、自身最多の1試合8打点を記録した。しかし、苦しいチーム事情を表すように、11―12で敗戦。投手としても、エンゼルスの連敗ストップを託されるマウンドが続いた。きつい状況でも勝利に導く姿には、エースの頼もしさがあった。
2年連続の球宴
その活躍を受けて、7月のオールスター戦(ロサンゼルス)では昨年に続き、投打の二刀流で選出された。エンゼルスの後半戦初戦、同22日のブレーブス戦(アトランタ)に先発登板するため、球宴のマウンドは回避することが事前に決定。打者として出場し、一回にカーショー(ドジャース)から球宴初安打となる中前打を放った。「どんな球が来ても(初球を)振ると決めていた。安打が出るか出ないかでは違う。この先何回も選ばれたいし、何回もこういう場所でプレーしたい。一本出ているかどうかは全然違う」とうなずいた。
チームは「売り手」に
後半戦に入っても、エンゼルスは前半戦の悪い流れから抜け出せず、トラウトやレンドンといった主力の離脱も痛かった。「良いチーム状態というか、良い野球ができているかと言われたら、そうではない。その中でできることを精いっぱい、一人ひとりがやらないといけない」。大谷は前向きに話していたが、8月2日が期限だったトレード市場で、エンゼルスは今季を諦めるように「売り手」になった。
先発のシンダーガード、外野のマーシュをフィリーズに、抑えのイグレシアスをブレーブスに放出し、23年シーズンを見据えて代わりに若手有望株を中心に獲得。米メディアでは大谷のトレードの可能性も報じられたが、エンゼルスに残留した。チームとしての目標を失った形となったが、もちろんシーズンは続く。大谷は「モチベーションの維持は難しいと思うけど、個人的にもやらないといけないことはたくさんある。まだまだ続いていく野球人生なので、一試合一試合に集中して、同じようにやれればいい」と語った。
ルース以来の快挙
8月9日のアスレチックス戦(オークランド)では6回無失点の好投で10勝目。1918年のベーブ・ルース(レッドソックス)以来、104年ぶりに同一シーズンの2桁勝利、2桁本塁打を達成した。メジャーを代表するレジェンドと比較され、「単純に二つやっている人がいなかったというだけかなと思う。それが当たり前になってきたら、もしかしたら普通の数字かもしれない」と謙遜したが、間違いなく偉業だった。
8月15日のマリナーズ戦(アナハイム)での登板で、それまで投げていなかったツーシームを試投。手応えをつかむと、その後は最終戦まで貴重な武器になった。時には球速が150キロ台後半にも及び、打者の手元で動く新球。相手がバットを出せず、呆れたような様子で打席に立ち尽くすシーンもあった。
投打で規定到達
前半戦の中6日中心から、後半戦は中5日中心となり、好投を続けたこともあって、イニング数は順調に伸びた。9月29日のアスレチックス戦(アナハイム)では八回2死まで無安打投球。ノーヒットノーランはならなかったものの、圧巻の内容だった。最終戦でシーズンの規定投球回に到達。同一年に投打で規定をクリアしたのは、ワールドシリーズが始まった1903年以降で大リーグ初の快挙となった。打者で9月後半から10月にかけて、日米を通じて自身最長の18試合連続安打を記録するなど、投打で最後まで集中力を切らさなかった。
記録ラッシュ
投打で奮闘した大谷は、大リーグ史上初の数字をいくつも記録した。球団がシーズン終了後に発表した資料の一部を紹介する。
★同一シーズンで10勝&30本塁打。
★1試合13奪三振と1試合8打点を記録したことがある選手。
★両リーグの前年リーグ王者を6回以上1安打以下に抑えた投手。
★登板前の一回に2打席立った先発投手(4月20日、アストロズ戦)。
★開幕戦で投手、野手としてチームの初球に関わった選手。
★先発登板した全試合に指名打者で出場。
★同一シーズンで2桁勝利と2桁盗塁。
ア・リーグの投手として、
★奪三振率が1位の11.87。
★10度の2桁奪三振は1位。(6試合連続2桁奪三振はノーラン・ライアンの7試合に次ぐ球団歴代2位)
★219奪三振は3位、防御率2.33は4位、15勝は4位、被打率2割3厘は6位。
★今季100マイル(約161キロ)を40球以上投げた唯一の先発投手。
MVP候補に
打者でもア・リーグで34本塁打は4位、95打点は7位、70長打は3位、などと堂々の成績。昨年ア・リーグ最優秀選手(MVP)に輝いた大谷は再び有力候補に挙がり、ジャッジ(ヤンキース)とのMVP争いは、シーズン終盤から米メディアで議論が過熱。今年も間違いなくメジャーの顔だった。
エンゼルスのモレノ・オーナーは8月、球団売却を検討していると発表。一方で、チームは大谷と年俸3000万ドル(約43億5000万円)で来季契約を結んだ。来オフにはフリーエージェント(FA)となるため、移籍に関するうわさは今後も出そうだが、ひとまず来季プレーする環境が整ってオフを迎えた。来年3月にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)があり、大谷が出場するかも注目が集まる。
「楽しみたい」
チーム状態で悔しさも味わったが、それ以上に充実した表情が印象に残る一年だった。7月のオールスター戦前日の記者会見。大谷は「純粋に野球を楽しみたい。それを見て幸せな気持ちになってくれたら、うれしい。自分自身が楽しんで、毎日プレーしたい」と話していた。来季も生き生きと「楽しんで」プレーすれば、さらなる超人的活躍が期待できる。夢の世界を現実化して、日米の野球ファンを楽しませてくれそうだ。
(2022年10月24日掲載)
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