政界を引退し民間人となっていた英国のキャメロン元首相が、現首相のスナク氏に請われて外相に就任した。英国で首相経験者が閣僚になるのは53年ぶり。そもそも首相を退いた後、議員を辞めるケースも少なくない。転じて、英国と同じ議院内閣制の日本では、元首相が閣僚になったり、首相再登板を狙って議員に居座り続けたりするケースが相次ぐ。この違いは何なのか?(曽田晋太郎)
英国のスナク首相は13日に内閣改造を行い、キャメロン氏を外相に起用した。与党保守党を率いるスナク氏は2025年1月までに行われる次期総選挙を見据え、経験豊富で知名度の高いキャメロン氏を閣僚に登用することで、低迷する党の支持率回復を狙う思惑があるとみられる。
キャメロン氏は10年に43歳で首相に就任。財政再建や経済成長で功績があったとされ、中国との経済関係強化を進め、英中蜜月時代をもたらした。一方、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う16年6月の国民投票でEU残留を訴え、離脱支持が多数となった結果を受けて翌7月に首相を辞任。9月には下院議員も辞めて政界を引退していた。
◆ブレア氏もジョンソン氏も議員を辞めた
英国では首相退陣後、議員も辞めるケースは少なくない。早稲田大の高安健将教授(英国政治)によると、歴代英首相のうち、サッチャー氏のように上院議員になったり、メイ氏のように下院議員を続けたりする例はあるが、キャメロン氏をはじめブレア、ジョンソン各氏は議員を辞めた。
高安氏は「日本と異なり、基本的に英首相は在任期間が長く、新しいリーダーで次の時代を進んでいくに当たり、仕切り直しの意味合いから前の時代と距離を取る傾向が強い」と指摘。「政争で引きずり降ろされたり、総選挙で負けたりするなど英国でイメージ良く辞めた首相はおらず、その後に議員などにとどまっても、昔のことを批判され続けるリスクもある。党にとってもそれは望ましくないので、新陳代謝が進む傾向にある」と説く。
◆菅義偉、野田佳彦、菅直人、麻生太郎の各氏は今も
一方、日本は英国に範を取った議院内閣制だが、こちらの元首相たちは即政界引退どころではない。首相経験者のうち、菅義偉氏、野田佳彦氏、菅直人氏、麻生太郎氏は現在も議員を続けている。
麻生氏は在任中の総選挙で敗れて辞任したが、約3年後に自民党が政権を奪還すると副総理兼財務相で復活。麻生氏を任命した安倍晋三氏も体調不良を理由に1年で首相を退いた後、約5年ぶりの首相再登板だった。それ以前には、宮沢喜一氏が当時の小渕恵三首相に請われて蔵相に就任した例や、森政権時代に橋本龍太郎氏が行政改革、沖縄・北方担当相になったケースも。また、田中角栄氏のように派閥
政治ジャーナリストの泉宏氏は「次の大統領選に出るというトランプ氏は例外で、首相経験者が国のトップや閣僚に返り咲く例はG7ではほぼ日本だけ。それは日本の政治構造の特殊化に起因している」と語る。
◆「ゾンビ元首相」を生むメカニズムとは
泉氏によれば、日本の首相は概して在任期間が短く、思いを残したまま辞めるケースが多いため、全ての実力者が「もう一度挑戦を」という意識を持つ。また、自民党内の派閥力学による「疑似政権交代」が続いており、実力者の起用を政権の安定材料に使うことが常態化している。こうした構造があるため、なかなか政界引退しない「ゾンビ元首相」を生んでいる。
泉氏はこう言う。「長く政治の中枢にいる顔ぶれが変わらないのは自民党政治の劣化でもあり、ますます国民の政治不信を増長させる。一度トップに立ち、辞めたなら潔く去るべきではないか」
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