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「普通がいい」
金沢市のがんサロン「はなうめ」で「なおちゃん」の愛称で慕われた彼女の口癖だった。がんの症状が進行し、普通の生活が次第に困難になっていく中でも、はなうめを通して、誰かとつながる日常を何よりも大切にした。
大学四年だった2011年、左腕に軟部肉腫というがんが見つかった。抗がん剤治療と手術を受けた後、卒業。社会福祉士として働き、同僚男性と結婚した。再発を繰り返しても仕事は続けた。「特別扱いされるのは嫌、って言ってね」と、母の洋子さん(60)は振り返る。
はなうめに通い始めたのは19年。鎮痛剤を使っても左腕の痛みが取れなくなっていた。それでも、同世代が集まる「青年部」で焼き肉に行き、みんなと一緒に盛り上がった。
「つらさを忘れるために来ていたんだと思う」。なおちゃんを見守っていた看護師の木村美代さんには、そう見えた。青年部で一緒だった三十代女性は「めちゃくちゃ大変な状況でも、いつも笑顔で元気だった」ことを思い出す。
「やり残したことや願望をかなえるでもなく、ただ日常を送っていた」と洋子さん。21年1月、お墓参りと好物の焼き肉を食べるため、外出を希望した。これが最後の外出だった。
自分が好きなこと、ささやかな幸せと社会とのつながりを大切にした、なおちゃん。はなうめでは、その生き方に学び、利用者が自分の「好き」を集めた「わたしファイル」を作る計画を立てている。カードに好きなもの、人、ことを書いてファイルにとじておく。「大切なことを決める時、自分を見失わないように役立ててもらいたい」と木村さんは話す。
若年患者 多くの困難直面
がんによって引き起こされるさまざまな問題は、医療だけでは解決できない。特に「AYA世代」と呼ばれる15~39歳のがん患者は、社会的な問題を抱える割合が他の世代に比べて高い。
国内のがん患者のうち、AYA世代は約2・5%。同世代で病気になる人が少ない分、孤独感が増す。人生経験も貯蓄もある中高年に比べ、精神的、経済的不安も感じやすく、うつ状態になって仕事が続けられなくなり、経済的に困窮するケースもある。
がんサロンが患者に与える効果を研究する金沢医科大医学部講師の久村和穂さんは、2010年と16年に国内のがん患者約1000人にアンケートをし、20~39歳の患者が孤独に悩む割合を約2割とはじき出した。50代の約3倍に当たる。
サロンの効果については「うつ・不安障害の改善、延命に役立つという研究結果はない」と指摘。一方で、サロンで他の患者と交流し「独りじゃない」と感じることで、自分で何とかできるという「自己効力感」が増す結果は出ていると話す。(戎野文菜)
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