電線の内部では「電子」ではなく「準粒子」が流れている
中学の教科書では、マイナス電荷をもった電子が導線の内部を流れていく様子が示されています。
この古典的な理解では、電子は個々の粒子が気体の流れのように互いに相互作用することなく導線内を移動し、その流れが電流を形成すると考えられています。
しかし量子力学や固体物理学の領域では、電子の挙動はもっと複雑で電子間の相互作用などが重要な役割を果たしているとされています。
この場合の基本となる理論はレフ・ランダウの「フェルミ液体理論」となっています。
なにやら難しそうな理論名ですが、概要は簡単です。
中学ではケーブル内を流れる電気のことを「相互作用しない電子の粒が気体のように流れていく」と習いました。
この考えでは、気体として考えられている個々の電子の粒がどう動こうが、周りの電子の動きに影響を与えません。
一方フェルミ液体理論では、電子は負に帯電しており、常に反発し合っていることから電子同士の相互作用を考慮することが前提にされています。
電子同士の相互作用を考えているぶん、フェルミ液体理論のほうが電気の実体をより正確に考えることが可能になるのです。
そしてこの前提をもとに電気の流れを考えると、電子は互いに相互作用する準粒子として知られる塊となり、群れを成して移動することが判明しました。
「準粒子」とは元の粒子(この場合は電子)とその周囲の相互作用が組み合わさって形成される複合的な挙動を、1つのまとまり、すなわち粒子のようなものとする概念です。
ただ、いろいろな要素が混ざっているのに「粒子」とするのはやや言い過ぎなために「準粒子」と言われています。
たとえ準をつけても、複数の物理現象をまとめて粒子的なもの(準粒子)にしてしまうのは乱暴だと思う人もいるでしょう。
しかしフェルミ液体理論に従って電子の動きを数式で記述していくと、数式の形が「粒子っぽく」なってくるのです。
たとえばある物理現象を担う存在のエネルギーが、運動量と速度のかけ算で表記できる場合、その物理現象の基本は「粒子」と考えられます。
(※「粒子のエネルギー」 = 「粒子の運動量」× 「粒子の速度」)
また別の物理現象を担う存在のエネルギーが周波数と(プランク)定数のかけ算として表記できる場合、その物理現象の基本は「波」と考えられます。
(※「波のエネルギー」 = 「プランク定数」× 「周波数」)
よく量子力学において「粒子性」や「波動性」という言葉を聞きますが、量子のエネルギーが粒子バージョンの数式と波バージョンでの数式を統合した形をしていることが前提となっているのです。
(※実際にはさまざまな形態の数式が存在しますが、ここではわかりやすく代表的なものを選びました)
つまり高度な物理学における「粒子」とは、ビー玉のような球形の物体の形状を定義するものではなく、数式が粒子っぽい形をしていることを意味しているのです。
そのためランダウのフェルミ液体理論が提唱する「ケーブルの中を流れる電子は互いに相互作用を及ぼし合う液体のような塊になって流れていく準粒子である」という部分は電子の存在を否定するのではなく、電子のより正確な流れ方を記述するための言葉であることがわかるかと思います。
ただそうなると「中学レベルの話は嘘だったのか?」と疑う人もいるでしょうが、大丈夫です。
フェルミ液体理論は奇跡的とも言える理論であり、電子たちの群れ(準粒子)の質量項を少し調整するだけで、電流を電子の動きとして書き直すことができるのです。
物理学においては、真実をそのままの形で使用するのはしばしば困難であるため「さしあたりこのように扱っても問題ないだろう」という状態(理解)で、話が進むことがよくあります。
特に相対性理論や量子力学の解説書では、このような妥協は至る場所でみられます。
ランダウのフェルミ液体理論は古典的な理解を脅かすものではなく、それを量子力学的な視点から補完し、拡張するものと言えます。
つまり中学で習うケーブルの中を個々の電子が流れていく図も、厳密ではありませんが、問題のない解釈と言えます。
さて、ここまでの内容はどの教科書(物理学)にも記されているものです。
以降のページでは、この教科書レベルの常識が、近年の発見によって崩れ去っていく様子を描いていきます。
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