2026年完成を目指していたサグラダ・ファミリア。
撮影:雨宮百子
ベルギー留学中の私はこの9月、格安航空ライアンエアーのセールでバルセロナとブリュッセルの往復航空券がたったの58.73ユーロ(9220円、以下1ユーロ=157円で計算)であることを発見し、勢いでチケットを購入していた。
なぜなら、バルセロナには死ぬまでに一度は見てみたい世界遺産の一つ、サグラダ・ファミリアがあったからだ。
ただ憧れの地で感じたのは、日本が世界に取り残されているのではないかという危機感だった。
とにかく高い入場料
サグラダ・ファミリア大聖堂の天井。
撮影:雨宮百子
サグラダ・ファミリアとは、1882年の着工から141年にわたり建設が続く大聖堂だ。建築家アントニ・ガウディが着工翌年の1883年、31歳のときに2代目の建築家に就任し「アントニ・ガウディの作品群」として、世界遺産にも登録されている。
最も安い大聖堂のみへの入場チケットは26ユーロ(4082円)、人気の「塔」への入場も含めたチケットは36ユーロ(5652円)だった。
世界遺産「ガウディの作品群」のなかで最も安い入場料だったのは、グエル公園で10ユーロ(1570円)。
その他のガウディ建築は、カサ・ミラで25ユーロ(3925円)、カサ・バトリョは31ユーロ(4867円。最低29ユーロから、日によって異なる)など、かなり「強気」のお値段だった。これだけで、一人1万4000円近くと、バルセロナ-ブリュッセルの往復航空券より高くなってしまった。
スペインは「貧しい国」?
カサ・バトリョの中から。多くの観光客でにぎわう
撮影:雨宮百子
2018年のガイドブックによると、サグラダ・ファミリアの最も安いチケットは15ユーロだった。アプリによるガイドの整備など、5年前とは状況が変わったにせよ、約10ユーロも値上げしたことになる。
こうした価格にも関わらず、どこもかしこも観光客であふれていた。特にサグラダ・ファミリアに至っては約5日先までチケットの予約が埋まっており、危うく入場できないところだった。
ただ、ガウディの作品群のチケットが高いのには理由もある。AFP通信によると、サグラダ・ファミリアの工事費は2019年時点で3億7400万ユーロ(約587億円)だが、その資金は寄付金と入場料のみで賄われている。しかし、コロナの流行でおよそ1年にわたり閉鎖が続き、頼みの入場料が得られなかったという。
ベルギーの友人は「スペインは貧しい国だからしかたないよね」と多少の文句を言いながらも、入場料を躊躇なく支払っていた。ただ、OECDのデータを見るとベルギー人いわく「貧しい国」というスペインの平均賃金は4万2859ドル。日本の平均賃金が4万1509ドルとはとても言えなかった。
金閣寺は100円値上げの「500円」
カサ・ミラ。ガウディの代表作のひとつで、バルセロナのシンボルともいえる建物。
撮影:雨宮百子
日本の世界遺産の価格はどうなっているのだろうか。日本には、2023年10月時点で25個の世界遺産が登録されている。例えば、姫路城や富岡製糸場の入館料は1000円だった。金閣寺(鹿苑寺)は今年4月に100円の値上げをし、500円になったが、これもコロナ禍で拝観者が減少するなかでの、維持管理に向けた「苦渋の選択」だったという。
それでもガウディの作品群と比べれば遥かに安い。
先日、あるベルギー人カップルを自宅に招待した。彼らは、日本のことがとても好きで、5年ほど前の来日の思い出を写真を見せながら語ってくれた。東京や京都を中心に回ったようだが、「とにかく清潔で、美しく、安かった」とべた褒めしてくれた。嬉しいはずなのに、「安い」という言葉が少しひっかかった。
彼らだけではない。ほかにも「日本に行きたい!」という欧州人から話を聞くと、ユーチューバーなどの動画を見ながら「これが、この価格なんでしょ。信じられないよね」と驚かれることも多い。
日本を好きでいてくれるのは嬉しいが、一方で「海外旅行とか、もはや高級品だよね」という日本の友人からの声や、海外在住の日本人の節約話を聞くことが多く複雑な気持ちになる。
世界のスタンダートは「値上げ」
バルセロナの路地裏。
撮影:雨宮百子
日本にいると「安さ」に慣れてしまうのかもしれない。
4月に、ニューヨークの物価の記事を書いたが、他にもリスボン、ベルリン、台北、パリなどを巡るなかで、世界は「値上げ」がスタンダードだと肌で感じる。
▶参考記事:日本人にとって海外は「超ぜいたく」になってしまうのか…ニューヨーク旅行での“衝撃”
日本でも最低賃金が引き上げられ、全国平均が初めて時給1000円を超えたが、それでも「安すぎる」だろう。ベルギーに語学留学をしていた大学生からは「ラーメン屋でのバイトは時給17ユーロ(2686円)だった」とも聞いた。
私はベルギー留学のはじめの頃には、欧州の価格を円換算して落ち込むことが多かったが、今は円安を気にして旅行や観光を後回しにする方がもったいないと思うようになった。
「日本の物価や賃金の安さ」に慣れて国内にこもるのではく、その「安さ」を受けれた上で世界を見ないといけないと思うのだ。
「高くて海外旅行に行けなくなってしまった」など、為替や経済状況で自分の人生を左右されるのはあまりにもったいない。それよりも、自分を鍛え、国や通貨を問わず、色々な形で報酬を得る力をつけることの重要性を痛感している。
私自身、英語とほんの少しのフランス語ができるようになっただけで、仕事を選ぶ幅は非常に広くなった。もちろん、日本にいてもその可能性はあったのかもしれないが、「語学に自信がない」「面倒くさそう」などと言い訳をして結局やらなかっただろう。「やらざるを得ない」環境に自らをおいたことで、初めてやる気に火が付いた。
世界に誇る日本人の仕事
外尾悦郎氏による「生誕のファザード」。
撮影:雨宮百子
サグラダ・ファミリアをはじめとするガウディの世界遺産には、実は日本人も大きな貢献をしている。
彫刻家の外尾悦郎氏は、40年以上建築に携わり、サグラダ・ファミリアの象徴である「生誕のファサード(正面)」を飾る「15体」の天使像を作った。そんな外尾氏がサグラダ・ファミリアで彫刻家として働き始めたのは、1978年、25歳の時だ。外尾氏は美術大学で学んだ彫刻の腕試しの場を求め、ヨーロッパに放浪の旅に出たなかでサグラダ・ファミリアに魅せられたという。またカサ・バトリョの階段には、建築家の隈研吾氏が手がけた鎖のインスタレーションも設置されている。
国際的に活躍している日本人の仕事を、海外で実際に見ると感動するし、耳につけていたガイドから、日本人の名前が紹介がされたときには誇らしく思った。
海外で活躍する先人たちは、若い時から海外に出て経験を積んでいる。
変化が遅い日本に留まるだけだけでなく、激変する世界に目を向ける必要があると、憧れのサグラダ・ファミリアを見ながら感じた。
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からの記事と詳細 ( ガウディ観光、入場だけで1万4000円。値上げが普通の欧州で感じた ... - Business Insider Japan )
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