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Monday, June 12, 2023

感染者数じわり増で「第9波」? 新型コロナ5類化1カ月 まだ警戒 ... - 東京新聞

入院患者が1人になった新型コロナウイルス専用病床で患者の体調を確認する看護師。右の部屋は空いている病床=6日、愛知県大口町のさくら総合病院で

入院患者が1人になった新型コロナウイルス専用病床で患者の体調を確認する看護師。右の部屋は空いている病床=6日、愛知県大口町のさくら総合病院で

 新型コロナウイルスが感染症法上の区分で「5類」となって1カ月。定点観測となったため、感染者・死者の数字のインパクトは薄れたが、現場で診療にあたる医師らからは、じわじわと感染者が増えつつあり、「第9波」との声も上がる。確かに世界的に普通の感染症として扱う流れが強まっているが、日本もその流れに沿うべきか。それともやはり「ただの風邪」ではないとの警戒はまだ必要か。(木原育子、西田直晃)

◆実態は「限りなくグレーの状態」

 「肌感覚だと、やはり徐々に増えているなあという印象ですね」。医師でジャーナリストの森田豊氏はそう話す。「もちろん、今すぐに医療の逼迫ひっぱくに陥るということではないですが…」

 これまでは全ての患者情報を集める「全数把握」だったが、厚生労働省は5類に移行した5月8日から、全国約5000の医療機関から報告を受ける「定点把握」に変更した。「移行後は、正確に実態を反映できていない可能性がある。検査も有料になり、症状があっても検査しない人もいる。陽性者を見つけられにくくなり、実態は限りなくグレーの状態だ」

 1週間前まで入院していた、福祉施設で働く東京都内の男性(57)は「手術する人は抗原検査を受けたが、入院だけの場合は検査さえなかった。巡回の看護師さんも『これでいいんですかね』と半信半疑だった」と話す。一方、入院患者には一律で検査する病院もあり、どこまで対応するか病院によって異なる。

◆ワクチン接種進まず

 国立感染症研究所の発生動向によると、移行直後の5月8日から1週間の定点当たりの患者数は、8日からは2.63だったが、15日からは3.56と、じわじわと増加傾向であることが分かる。年代別も満遍なく広がっている。

 実際、福岡市内の中高一貫校では全校生徒2340人の2割に当たる生徒が陽性か陽性の疑いがあり、6〜9日まで休校になった。全校生徒が参加した体育祭でクラスターが発生した可能性がある。

 新型コロナは夏と冬に流行する傾向だが、本年度のワクチン接種は5月8日に始まったものの、65歳以上の接種率はいまだ21.1%(6日時点)。全体では6.8%と1割にも満たない。日本医師会の釜萢かまやち敏常任理事は7日の会見で「現状の推移では減少傾向は見られない。獲得した免疫が下がってくるのは確かで今後も注意が必要だ」と促す。

◆別の感染症も増加

 だが、一度緩んだ注意をもう一度引き締めるのは容易ではない。

 ある女性(58)は高齢の母親(85)と5月中旬から10日間のクルーズ船に乗船。下船直後に2人とも感染した。ツイッターに投稿すると、「私も…」とその船で何人も感染していたことが判明。事実を知りたいと船会社に問い合わせたが「5類なので…感染の全体像を把握する必要は求められていない。インフルエンザと対応を変えるつもりはない」の一点張りだった。女性は「5類になったことで、感染しても自己責任という空気が蔓延まんえんしている。こんな無責任な企業を大量発生させていいのだろうか」と疑問を投げかける。

 一方、5類化の副産物とみられる別の現象も。乳幼児を中心に夏に流行する「ヘルパンギーナ」や、通常は秋ごろに増える風邪に似た症状の「RSウイルス」など別の感染症が増加していることだ。RSウイルスの感染者数は2週連続で増え、へルパンギーナも「過去5年の同時期と比較してもかなり多い」(国立感染症研究所)。コロナ禍で他の感染症と接する機会が減り、免疫力低下を招いたと考えられているという。

◆コロナ対応で通常医療提供が困難な病院も

 全数把握から定点把握に変わり、感染者や死者の数の積み上がりは分かりにくくなっているが、やはり5類化以降も感染拡大は続き「第9波」となるのか。

 「5類になったことと、感染者数の増減は関係のない話。条件が整うと、感染者数は増える」と強調するのは、京都大の西浦博教授(感染症疫学)だ。「補助金でコロナ患者専用に確保していたベッドが、5類化で病院からなくなったり、減ったりしている。すでに沖縄ではコロナ対応でベッドが全て埋まり、通常医療の提供が困難な病院が増えてきた。感染拡大が続けば他の地域でも同じ問題が生じ得る」と懸念を示す。

 「医療逼迫を未然に防ぐ具体的な手だてが講じられていない。重症化しやすい人の早期診断・早期治療、予防接種の呼び掛け、感染対策はいずれも不十分だ。流行はレベルの差こそあれ継続する。被害をできるだけ限定するため、流行状況が悪ければ屋内でのマスク着用を推奨し、良ければ日常や余暇を楽しむといったメリハリのある暮らしが求められる」

◆識者「コロナとの共存が経済復活に必要」

 ただ、世界的には、コロナ禍は収束しつつあるという見方が支配的だ。5類化の直前の5月上旬、世界保健機関(WHO)は緊急事態宣言を終了させた。欧米諸国が規制を撤廃し、通常の生活に戻った状況を踏まえた措置だった。上武大の田中秀臣教授(経済学)は「インフルエンザと同じような形で、このままコロナと共存していくのが、日本経済の復活にも必要だ」と主張する。

 「5類化で人出が戻り、消費が上向き、飲食業や旅客業などは人手不足が深刻化している。だが、民間の力だけでの完全なリカバリーは難しい。岸田(文雄)政権の積極的な財政政策がなければ、脱コロナの持続的な経済回復という見通しは立たない」と話す。

 政府のコロナ対策分科会のメンバーで、慶応大の小林慶一郎教授(経済学)も「今後の医療逼迫の状況にもよるが、今の国内の感染者数や重症化率なら、日本でもそれほど気にせずに生活すればいい」と語る。

◆「教訓を生かすべき時期」

 確かに、コロナ禍の収束は誰しも願うところだ。だが、今後も「インフル並み」扱いで済むのかどうか。

 昭和大の二木芳人客員教授(感染症学)は「確かに、若い世代の死亡率はインフル並み、もしくはそれより低いが、感染力はなお強力だ。症状が現れなくても、ウイルスが周辺にまき散らされるのは変わらない」とくぎを刺す。

 さらに、新たな変異株の「XBB.1.16」がアジアやアメリカで急増している。後遺症の実態把握も進んでおらず、特効薬は存在しない。「今もウイルスは姿形を変え、免疫をすり抜ける力を身に付け、より感染しやすくなっている。変異すれば、薬も効かなくなる。米国では、約400万人が働けないレベルの後遺症を抱えているというデータもある」と説明し、こう訴える。「病態には未解明な部分が多い。この現状で、風邪やインフルと同じように意識するのは危険だ」

 前出の小林氏は「平時の今だからこそ、やっておくべきことがある。教訓を生かすべき時期だ」と語気を強める。「PCR検査の能力が不足したが、必要な量を見積もって増やしておく必要がある。2009年の新型インフルエンザの後も増やしておくべきと言われていたのにできなかった。繰り返してはいけない」。不具合が問題化した接触確認アプリ「COCOA(ココア)」にも触れ、「うまくいけば相当数の感染を抑え、患者の早期発見も実現できた。資料を散逸させず、どうして失敗したのかを検証しなければ」と注文した。

◆デスクメモ

 これからの時期に感染拡大してきたのが過去3年だ。5類化の影響を抜きにしても今後、拡大は避けられまい。それでもインフルエンザ並みとして扱うという。もちろんそれで済めばよい。ただ、その扱いを金科玉条にして感染者や医療従事者が苦しむようなことがあってはならない。(歩)

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