PC Watchに期待の新人がやってきた。YouTubeでゲーム配信をしてきたA君だ。今風の経歴だなぁなどと思っていたが、聞けばこれまで400本にも及ぶ動画を配信してきたとのこと……。PC Watch公式チャンネルPADより公開本数が多いじゃないですか。すごい! そんな実績を買われ、編集部では動画制作も担当している。
ただ、個人で動画を編集/配信していたときは気にしなかったものの、業務として動画を制作するようになってからは気になることも出てきたらしい。それは「自分が編集した動画の色と、視聴者が見ている色は、本当に同じなのだろうか」ということ。機材がそれなりに揃っていて他のスタッフと確認しやすい社内環境はともかく、テレワーク時に自前の環境で作業するときは不安なようだ。
趣味にしても仕事にしても、制作した動画や撮影した写真が他人の目に触れる場合、少なくとも制作側の環境では「正しい」色合いにしておくことが大事。そんなときに役立つのがクリエイター向けモニターと言われるが、実際のところクリエイター向けのモニターは普通のモニターと何が違うのだろうか。今回はBenQのクリエイター向け4Kモニター「PD2725U」をA君に使ってもらい、違いを体感してもらった。
広い色空間を持ち、正確な色表現が可能なクリエイター向けモニターの利点とは
PC Watch編集部はテレワークの比重が高く、自宅で日々の業務をこなしているA君。現在使用しているモニターは学生時代に購入したもので、作業効率を考えてマルチモニター環境を構築しているとのこと。ただ、モニター一台一台は金銭的な問題から「コスト重視」で選ぶしかなかった。そのためクリエイター向けモニターは所有していない。
A君が個人でYouTube配信してきたのはゲーム関連のコンテンツ。映像素材はゲーム画面がメインでさほど色合いを気にする必要がなかったため、安価なビジネス向けモニターでも問題はなかった。しかし、最近ではマインクラフトのデータを3DCGツールのBlenderに取り込んで、建築したものを美しくレンダリングして見せることも増えてきた。そして、PC Watchの動画では、カメラで撮影した映像を使うこともあり、編集時に色補正の処理を施すことも少なくない。
そうなると話は変わってくる。自分では美しく、あるいは見やすく調整したつもりでも、視聴者の環境では想定外の色合いになり反対に見にくくなっているかもしれない。上司など、別のスタッフのチェックはあるけれど、自分で色味を確認する術はない……。そんなことが仕事をしていくうちに徐々に気になり始めたのだという。
では、高性能なクリエイター向けモニターにすれば不安は解消されるのだろうか。その前に一般的なビジネスモニターと、クリエイター向けモニターとでどんな違いがあるのか、ざっくりおさらいしておきたい。
最も大きな違い、それは色の再現性だ。たとえば動画の1シーン、風景写真1枚にしても、膨大な数の色が含まれている。でも、映像や写真が撮影者の意図通りに編集者のモニターに映し出されているとは限らない。そのモニターでは表現しきれない微妙な色があったときは、代わりに表現可能な近い色で表示する。極端に言うと、本来は徐々に色が変化するグラデーションになっているところが、1色で塗りつぶされる可能性があるわけだ。色の再現性が高いモニターとそうでないモニターとでは、見え方は明らかに変わってくるだろう。
こうした色再現の能力は、製品が対応を謳う「色空間」やその「カバー率」で推し量ることができる。PC用のモニター製品に一般的に広く採用されている色空間は「sRGB」と呼ばれるもの(映像の場合はRec.709)で、そのカバー率が100%に近いほど、sRGBという色空間における再現性は高いことになる。Webで公開されている多くのコンテンツもこのsRGBの色空間に合わせて作られている。近頃は手頃な価格のビジネスモニターでも、100%に近いカバー率のsRGBに対応する製品が増えているところだ。
一方で、Youtube用の動画ならRec.709が主流だ。さらに、sRGBより幅広い範囲の色を再現できる色空間として、MacやiPhoneなどで採用が進んでいるのが「Display P3」。sRGBと比べ、特に緑や赤の表現力が高くなっているとされる。編集用のモニターにはこうした最終表示デバイスに合わせた色空間に対応していることが求められるが、理想は、編集作業はソースに合わせた色空間、完成が近いコンテンツのチェックは最終表示デバイスに合わせた色空間で行なうというやりかただろう。そして、Rec.709やDisplay P3への対応を明記してあるモニターはクリエイター向けや一般向けのものでもグレードの高い製品に限られている。
また、画質以外の面でもクリエイター向けモニターはクリエイター向けたる理由がある。多数のPCをつなぐための豊富なインターフェイス、キーボードやマウス、外部ストレージなどをPCと共有するためのUSBハブ機能、多数の映像モードを簡単に切り換えられるユーザーインターフェイス、微調整可能なスタンドといった機能面だ。
実際のところ、こういった点をA君はどのように感じるのだろうか。
「PD2725U」とビジネスモニターで“見え方”を比較したら……
今回クリエイター向けモニターの例として挙げているBenQの「PD2725U」は、sRGBに100%対応したうえで、Display P3についても95%という広大な色空間をカバーする製品となっているのが特徴だ。sRGBにしか対応しないビジネスモニターと、Display P3にも対応する「PD2725U」とでは、同じ映像を表示したときでも表現力は大きく異なってくることになる。
BenQのsRGB対応ビジネスモニター「GW2480T」(フルHD)と、Display P3対応の「PD2725U」(4K)の2台を並べてDisplay P3に合わせて作成された約6,000×4,000ドットの写真を見比べてみると、はっきりとその違いが分ける。料理に添えられたソースはビジネスモニターだと暗く沈んでいるが、「PD2725U」は鮮やかな赤。ハンバーガーのバンズも「PD2725U」だと焼きたてのこんがり感が伝わる明るい茶色で、「PD2725Uの方が断然おいしそう」とA君はうなる。
さらに青々とした海が広がる風景写真では、「PD2725U」だとまさに南国のイメージ通りのエメラルドグリーンを表現できており、透明感も圧倒的。人物の肌色は、微妙な赤を再現できるせいか血色良く感じられるほどだ。さらに石積みされた防波堤の細部の質感に、A君は「すごいリアリティ……」とつぶやく。Display P3によって複雑な色味をしっかり再現していることもあるが、「PD2725U」の解像度が4K(3,840×2,160ドット)であることも関係している。データとモニターの解像度が1対1の表示でなくとも、データにより忠実に表示できるためだ。
高精細に見えることの秘密は解像度だけではない。それが、PD2725Uに搭載されている輝度ムラを補正する機能。実は液晶モニターの明るさは均一ではない。
たとえば、中央部と周辺部で微妙な違いがある。そうした環境では、データ上は同じ“赤”だったとしても、画面中央と周辺部で違う赤に見えてしまう可能性がある。この場合、データに対する表現の精度が落ちてしまうわけだ。これを均一に調整してくれるのが“ムラ補正”だ。実際にグレーやホワイト1色の画像を表示して同機能をON/OFFするとOFFの際には確かに明るさにムラがあることが筆者にもA君にも分かった。写真でON/OFFすると、ONの時のほうが全体的にパキッとした解像感の高い印象になった。
ところで「PD2725U」は、Windows環境でももちろん活躍する広色域モニターだが、Display P3を標準でサポートするmacOS、特にMacBookシリーズとの相性はさらに良い。というのも、MacBookの外付けモニターとして使うことを前提とした色空間の「M-book」というモードがあるからだ。
「M-book」モードでは、Display P3をベースとするMacBookの内蔵ディスプレイに限りなく近い色合いを「PD2725U」側で一発で再現できる。MacBookの画面での見え方と「PD2725U」での見え方に差異をなくし、統一された色合いで一貫した作業が可能になるのだ。作業するモニターの違いで動画/写真の色調整の仕方に違いが出る、といった問題に悩まされることはなくなるだろう。
また、モニターの色味の調整は慣れていないと時間がかかるし不正確になりがち。MacBookのモニターと一発で色味を合わせることができるのは機材の扱いに不慣れなMac系クリエイターにとっては大きなメリットとなるはずだ。
M1/M2チップ搭載Macは動画編集のパフォーマンスがとりわけ高い。そうした点も踏まえると、「PD2725U」はまさに動画制作にもぴったりのモニターだ。「PD2725U」とMacBookの組み合わせは、A君が「理想的ですよね」と思わず口にしてしまうほど、魅力の大きな環境であることは間違いない。
4Kの高解像度で作業スピードアップ、疲労も軽減
次に注目したのは解像度。普段からAdobe Premiere Proを使用しているA君は、「PD2725U」の色再現性の高さだけでなく、解像度の高さも気になるようだ。4Kという解像度は、当然ながら1画面内に表示できる情報量が多い。「これも作業の効率化につながりそう」と期待するセリフとともに動画編集を試し始めた。
通常、動画編集時のプレビュー映像は画面全体の数分の1サイズで表示することになる。そのためモニターがフルHD程度の解像度であれば、プレビュー映像の細部はどうしてもつぶれてしまう。編集し終えたと思って動画ファイルに出力したものの、全画面で再生してみたら細部にミスが見つかって編集し直し、というような無駄な修正作業を繰り返すことも珍しくない。
それに対して4Kの「PD2725U」なら、ある程度縮小されたプレビュー映像でもドットバイドットに近いスケールで表示される。フルHDモニターでは判読の難しかった細部がくっきり見えるため、ミスがあってもその場で気付いて対処できるし、タイムラインやUIのフォントなども視認性が高まっている。A君は「これなら動画編集作業が全体的にスピードアップしますね」と言い切り、モチベーションも同時にアップする勢いだ。
とはいえ、細部に目を凝らしながら作業していると疲れやすいのも事実。動画編集はモニターに長時間向き合う作業でもあり、正確な色合いで精細に表示してくれたとしても、すぐに疲れてしまっては作業がはかどらないだろう。しかし「PD2725U」はそうした点でも安心だ。
最近は多くのモニター製品で目への悪影響を減らすための「ブルーライト軽減」機能が用意されており、「PD2725U」ももちろん搭載している。そのブルーライト軽減が適用されるモードがさらに細分化されており、「マルチメディア」、「ウェブサーフィン」、「オフィス」、「閲覧」という用途に応じた4段階の設定が用意されているのがポイントだ。
たとえば「マルチメディア」だとブルーライトを確実にカットしながらも、動画・写真の編集時でも違和感のない色味で、最終的なアウトプットへの影響も抑えられる。「ウェブサーフィン」、「オフィス」、「閲覧」の各モードは後者になるにつれ赤みが強くなるので映像制作などには向かないが、その時の用途に合わせて逐次切り替えることで、疲労を軽減しながら効率よく作業できるだろう。
クリエイティブ作業を支援する「PD2725U」の操作性の工夫
できるだけ多くのユーザーが違和感なく動画や写真を見られるように、ということに配慮するなら、Display P3の色空間の範囲内に収まっている、一般的なsRGB環境を想定して作り込んでおくのが今のところはベターだ。なので、作業中はDisplay P3だとしても、最終的にはsRGBで見られることを前提に見栄え調整することになる。
となれば、編集中にDisplay P3とsRGBの両方にたびたび色空間を切り替えて確認する、といった作業が必要になる。でも、先ほどのブルーライト軽減への切替も含め、そのためにいちいちモニター側のボタンでOSDを操作するのは手間だ。そこで「PD2725U」は、そうした色空間切替などの操作性を高めるために、いくつかの工夫を用意している。
1つは、標準で付属している専用リモコン「ホットキーパック G2」だ。「PD2725U」に接続し、リモコンのダイヤルやボタンを指先で操作することで、あらかじめ割り当てておいた機能を素早く実行できる。たとえば「1~3」のボタンでDisplay P3やsRGBなどをワンタッチで切り替えられるようにしたり、ダイヤルを回してモニターの輝度を調節したり、HDMI、DisplayPort、Thunderbolt 3の各映像入力を切り替えたり、といったことが可能だ。
また、Windows/macOS対応の専用ユーティリティ「Display Pilot」をPCにインストールすることで、それらモニター設定の切替・カスタマイズがマウス操作でさらに容易に行なえる。加えてその中にある「ICCsync」という機能を使えば、Macと「PD2725U」のどちらか一方で色空間を変更したときに、もう一方の画面も自動同期して同じ色空間の設定に切り替えてくれたりもする。
実際に2つの色空間で表示されたコンテンツを見比べたい、というニーズもあるだろう。そんなときは画面を左右に2分割して同時に2つの色空間で表示する「DualView」機能が使える。これらリモコンやユーティリティの機能を活用すれば、動画・写真編集時のモニター環境と、視聴者側を想定したモニター環境とをクイックに切り替えられる。「作業中に見栄えを随時確認するのも手間にならないし、このリモコンは絶対に欲しいですね」とA君は物欲が刺激されている様子。
充実のインターフェイスで複数PC環境での作業性も向上
モニターとしての性能だけでなく、接続ポートなどインターフェイスの充実度も高いのがクリエイター向けモニターである「PD2725U」のアドバンテージ。HDMI×2、DisplayPort×1といった標準的な映像入力端子を備えるのはもちろんのこと、Thunderbolt 3ポート×2、アップストリームUSBポート×1、ダウンストリームUSBポート×2もある。
Thunderbolt 3ポートの一方はDisplayPort Alternate Mode対応で、最大65Wまでの給電が可能なもの。ここにMacBookなどのノートPCを接続するだけで、「PD2725U」に映像出力すると同時にノートPCに給電もしてくれる。ケーブルを1本つなげば、バッテリ残量を意識しなくて済むデュアルモニター環境があっという間にできあがるのだ。
しかも、その際にはダウンストリームUSBポートに接続したキーボードやマウスなどの周辺機器も使えるようになる。「PD2725U」はいわばドッキングステーションのような機能も内蔵しているというわけ。ノートPCではなくWindowsのデスクトップPCであっても、アップストリームUSBポートにつなげば同じようにドッキングステーション的な使い方が可能だ。
さらに、もしノートPCとデスクトップPCの2台を併用しているのであれば「KVM」機能が役に立つ。これは、Thunderbolt 3とアップストリームUSBポートのそれぞれにPCを接続しているとき、映像入力を切り替えると、自動でダウンストリームUSBポートに接続している周辺機器の操作対象も切り替えてくれるというもの。つまり、2台のPCの操作を1セットの外部キーボードとマウスでまかなえてしまう。
作り手側になったなら、広色域かつ高機能なクリエイター向けモニターを
ゲームで遊ぶだけ、動画やWebコンテンツを見るだけ、というような場合は、モニターが「正しい色味」になっているかどうか意識することはおそらくほとんどないし、その必要性も薄いだろう。よほど使い古して劣化したものでない限り、安価なビジネスモニターでも十分なクオリティや実用性を備えているものだ。
しかしながら仕事であっても趣味であってもいったん作り手側になってしまうと、色に対する意識は変わらざるを得ない。それを目にする多くの人が違和感を覚えることのないコンテンツにすることを心がけるべきで、そのときにはsRGB 100%やDisplay P3に対応する広色域のクリエイター向けモニターが強い味方になる。
加えて、モニターの広い色空間を最大限に活かしながら効率的に映像制作や写真編集の作業をしていくのであれば、それに見合った高い機能性や豊富なインターフェイスをもつ製品を選ぶことも重要。BenQの「PD2725U」がクリエイティブな作業に不可欠なそれらの要素を兼ね備えたモデルであることを、A君はしっかりと実感できたようだ。
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