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Saturday, March 4, 2023

「普通の看護師」渡辺直子さんが世界に14座の8000m峰完全制覇に ... - 東京新聞

<山にまつわるエトセトラ⑤>

 今回はすごい女性を紹介します。世界に14座しかない標高8000メートル以上の高峰のうち13座の登頂に成功し、今年最後の1座、中国のシシャパンマに挑む看護師で登山家の渡辺直子さん(41)。「女性世界初」の偉業達成に向け、1月からインターネット上の応援購入サービス「マクアケ」で支援を募っています。全14座を制した登山家は「14サミッター(サミットは英語で「頂上」)」と称賛されますが、その偉業は「夢をかなえるための手段」とのこと。では、彼女の「夢」とは? 「デスゾーン」と恐れられる山々の何が彼女をひきつけているのか? じっくりお話を伺いました。(デジタル編集部・竹村和佳子)

世界9位ナンガパルバット山の山頂=2022年(本人提供)

世界9位ナンガパルバット山の山頂=2022年(本人提供)

◆「普通の看護師」が給料全額つぎ込んで

 待ち合わせ場所に現れたのは身長156センチの小柄な女性。「私は普通の看護師」と謙遜するが、ヒマラヤ山脈に連なる標高8000メートル以上の巨峰をこれまで24回も登る=表=など、登山家としての経歴は「普通」から大きくかけ離れている。

 挑戦を始めたのは20代半ばの頃。初めのうちは数年に1度のペースだった。看護師としての稼ぎを全額注ぎ込みながら「まず行ってみよう、難しかったら下りればいい、くらいの気持ち」でヒマラヤに通った。

 転機は2019年。アンナプルナⅠ峰とカンチェンジュンガ、どちらも3度目の挑戦で日本人女性初となる登頂を成し遂げ、8000メートル峰は7座に達した。周りに14座制覇を目指す人がいたこともあり「私もできるのでは」と、当時アジア人女性にはいないとされていた14サミッターを目指すことを心に決めた。

 20年は新型コロナウイルス禍でヒマラヤ全山が閉鎖されたが、21年にネパール、パキスタンの山々では規制が緩和され、渡辺さんは8座目となるダウラギリに登頂した。この頃、アジアの登山界で「大富豪の令嬢や、スポンサーをいっぱいつけた20代の若い人たち」という新手のライバルが次々登場しつつあることに気付いた。「私は20年近くかけて自分のお金だけでコツコツやってきたのに。この人たちには負けたくない」と負けず嫌いの虫が騒いだが、資金力の差はいかんともしがたかった。

8000メートル峰全制覇を目前に抱負を語る看護師登山家の渡辺直子さん=東京都千代田区で

8000メートル峰全制覇を目前に抱負を語る看護師登山家の渡辺直子さん=東京都千代田区で

 それまでのペースで登っていては先を越されてしまうという危機感から、初めて自身のホームページで支援を募り、セレクトショップ「ビームス」などのスポンサーも獲得した。1年の半分しか日本にいなくなるため「家賃がもったいない」と家も引き払った。カプセルホテルに泊まり、都内などでフリーの看護師として働きながら、22年は6座(以前登ったマナスルに登り直したのを含む)に登り、記録を計13座まで伸ばした。

 一気に全制覇できなかったのは、渡辺さん側の事情ではない。唯一未踏のシシャパンマが、管轄する中国政府の厳しいコロナ対策で20年より入山禁止となっているためだ。ただ、中国は22年秋に「ゼロコロナ政策」を転換しており、今年は入山禁止が解除される可能性がある。

 ライバルに先駆けて登頂するために、入山が解禁されたら今春にも登りたいと渡辺さんは考える。だが、ベストシーズンとされる秋に比べて春の山は雪深く難度が上がる。「必要なシェルパ(ヒマラヤ登山の案内人)をネパールから連れて行かなければいけないし、ルート工作のための装備も自分たちで用意しないといけない」という事情から、お金も普段よりかかるのが実情だ。このため「マクアケ」での支援募集を始め、4日昼までに、223万2000円の支援が集まっている。資金はまだ足りていないが「許可さえ出れば、借金をしてでも行く」と準備を整え、今は中国政府の許可を待っている。
応援購入サービス「マクアケ」のページより=3月4日昼

応援購入サービス「マクアケ」のページより=3月4日昼

◆「本当の頂上」とは? アジア初→世界初へ

 22年7月、8000メートル峰の情報を集めた山岳情報サイト「8000ers.com」(英語)は、それまで14サミッターと思われていた登山家の大半が頂上の位置を間違っており、実際に14座の「本当の頂上」を踏んだのは男性4人しかいないという研究結果を発表し、世界の登山界に大きな衝撃を与えた。

 これまで女性の達成者は欧州勢の3人とする説が有力で、渡辺さんは「アジア人初」を目指していた。だが、この研究結果によれば3人とも頂上を間違えた山が含まれており、女性14サミッターは現状いないことになる。渡辺さんはいち早くシシャパンマの頂上を踏み、「本当の頂上で14サミットを制した世界初の女性」となるつもりだ。

 8000メートル峰の登頂は、管轄する国の政府が認定するが、誤認や誤差も多く、一括してデータを管理している公的機関はない。「8000ers.com」は政府発表のデータなどを元に登山家やシェルパなどへの聞き込み、写真や動画を精査してドイツ人男性らが管理しているデータベースだ。

 同サイトの信頼性について、山岳雑誌「山と渓谷」や「PEAKS」の編集にも関わってきた山岳ライターの森山憲一さんは「運営しているのは個人だが、情報の網羅性と正確性はかなり高く、世界の登山メディアが参考にしているサイト。今後多くの人の検証が必要になるだろうが、昨年の研究結果もおそらく正しいだろうと思われている」と評価。渡辺さんについては「すばらしい挑戦。(成功すれば)女性初の『完全』達成者とみなされる可能性はある」と期待を込めた。

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