作家・橘玲氏のアイコン。本記事はご本人へのインタビューを元に聞き書きされている。
Akira Tachibana
・人生が攻略できるのと同様に、新NISAも攻略できる——。作家の橘玲(たちばな・あきら)氏は、そう断言する。
・どちらも「コスパ」「タイパ」「リスパ」が重要指標であり、それぞれの効率を高めれば、より良き道が拓けるからだ。
・そのうえで同氏の新NISAプランは、「つみたて投資枠」を使った世界株インデックスファンドへの積み立て投資だという。
人生は攻略できる。それと同じく、新NISAも攻略できる。
人生を攻略する上で重要な指標は、「コスパ(コストパフォーマンス)」「タイパ(タイムパフォーマンス)」「リスパ(リスクパフォーマンス)」の3つだ。その考え方は新書『人生は攻略できる』にまとめたが、それは新NISAをはじめとする投資においても変わらない。
いきなり結論から述べるなら、私の新NISA攻略法は、年間120万円までに拡大される「つみたて投資枠」を使った、コスパ・タイパ・リスパに優れた世界株インデックスファンドへの積み立て投資だ。
そう考える理由と、具体的な戦略を説明していこう。
「コスパ」の良い制度である新NISA
新NISAの話をするにあたって、まずは投資でもっとも重要なことをはっきりさせておく。それは、いかにコストを下げるかということ。すなわちコスパだ。
投資のコストには、1. 手数料、2. 税金の大きく2つがある。NISAは枠内の投資であれば、この税コストがかからない、利用者にとっては大変「コスパの良い」制度だ。
同じ投資をするなら、税コストがかからない制度を使わない選択はない。だから私は、つみたてNISAの制度が始まってから、年40万円の投資可能枠に月々3万3000円ほどをずっと積み立ててきた。
もうひとつのコストは、株式や投資信託を売買・保有するときに発生する証券会社や運用会社への手数料だ。株式の売買手数料は取引回数を減らすこと、すなわち長期投資によって最小化できる。投資信託では、もっとも手数料率(信託報酬)が低いのはインデックスファンドだ。
これが、私がインデックスファンドの積み立て投資を推奨する第一の理由になる。
「タイパ」最大化にはインデックス投資
現代において、コスパと並んで重要度を増しているのが、時間対効果であるタイパだ。これが重要なのは、ますます複雑化する現代社会において、時間資源が稀少になっているからだ。
投資のタイパを最大化する方法は、銘柄選択をせずに株式市場全体のコピーを保有することだ。これがインデックス投資で、それが経済学的にもっとも正しいことは半世紀以上前に、モダンポートフォリオ理論によって数学的に証明された。それ以降、この結論は現代に至るまで覆されていない。
証券口座に積み立ての設定をして、あとはインデックスファンドに毎月定額を自動的に積み立てていく。これがもっとも「タイパのいい」投資法なのだ。
現代社会では、仕事、勉強、趣味、家族・友人との関係など、やりたいこと、やらなくてはならないことがどんどん増えている。そのなかで、貴重な時間資源を何に使うのか? これが今を生きる私たちにとって最大の課題だろう。
投資や株式分析が好きな人が、銘柄研究やチャート分析に多くの時間をかけるのは良いだろう。だが、金融市場の仕組みにさしたる興味も知識もない一般の人が、投資に多くの時間資源を費やすことには、正直あまり意味を感じない。つまり、タイパが悪いのだ。
「リスパ」も投資には欠かせない視点
投資にはリスクがつきものだ。リスクとリターンのバランス、すなわち「リスパ」を適切に管理しなくてはならない。
そのひとつが日本円のリスクだ。多くの日本人は、日本に暮らして、日本企業で働き、そしてマイホームとして日本の不動産を所有しているだろう。これでは日本円に対するリスクが過剰になり、大幅な円安になったときにインフレなどで大きな損失を被ってしまう。リスパの観点では、新NISAで日本株に投資する合理的な理由はない。
ファイナンス理論では、すべての金融商品のなかで世界株のインデックスファンドが、リスクに対するリターンの比率(投資効率)がもっとも高い。それに対してアクティブファンドは、長期的には手数料の分だけインデックスファンドよりもパフォーマンスは下がる。この単純な理屈によって、同じリスクを取るならより大きなリターンを期待できる(同じリターンならよりリスクが小さい)インデックスファンドに軍配が上がる。
これが、「投資の神様」であるウォーレン・バフェットが(自分が運用するファンドを除けば)インデックスファンドへの投資を勧める理由だ。
結論として「MSCIコクサイ」1本で
コスパ・タイパ・リスパを意識した投資法について、もう少し具体的に整理しよう。まずコスパについては、税コストがかからない新NISAで、手数料コストの安いインデックスファンドに投資することで異論はないはずだ。
次にタイパの観点。証券会社に口座を作って、新NISAのつみたて枠に毎月定額のインデックスファンドを積み立てる設定に必要な「時間資源」は、せいぜい30分か1時間程度だろう。世界市場に投資するなら、ファンドのスイッチングで頭を悩ます必要もなく、新NISAは恒久化されたので、10年、20年、あるいはそれ以上の期間放っておけばいい。投資期間が長ければ長いほど、複利の力で金融資産は大きく育っていく。
ついでに、リスパという視点でインデックスファンドの具体的な銘柄にも触れておこう。私は一貫して、日本を除いた先進国の株式市場に分散投資する「MSCIコクサイ」インデックスに連動するファンドを推奨してきた。これは日本株に未来がないと思っているからではなく、日本円のリスクが過剰な日本人は、外貨建ての資産をできるだけもつようにすべきだと考えるからだ。
アメリカの株式市場は世界市場とほぼ連動するので、手数料コストが低く流動性も高いS&P500インデックスファンドでもいいし、テクノロジーによる変革に期待するならNASDAQ市場に投資するのもいいだろう。もちろんこれらを組み合わせてもいいが、あまり複雑にしてもパフォーマンスに大きな影響はないだろう。
ちなみに、前述したMSCIコクサイの10年間のパフォーマンスは、年率13.8%。旧つみたてNISAで年40万円(月約3.3万円)を10年間積み立てた場合、累計積み立て額は約400万円(396万円)で、それが844.7万円とほぼ倍になった。
過去の実績は未来を保証しないが、今後も同じようなペースで世界経済が成長していくとすれば、30歳から30年間、投資総額が1800万円になるまで月額10万円を新NISAに積み立てれば、60歳時点の資産額は2億円を超えているはずだ。アインシュタインが「人類最大の発明」といった(と伝えられる)複利のパワーによって、投資期間が長ければ長いほど「富が富を生む」のだ。
投資の最大の武器である複利の力を最大限活かすためにも、若い世代にはコスパ・タイパ・リスパに優れた新NISAでのつみたてを、まずは少額からでもはじめてみることをお勧めしたい。
成長投資枠を否定するわけではない
新NISAの成長投資枠だが、若い人が応援している会社の株を保有するとか、金融市場の仕組みを勉強するために株式投資をしてみるなど、金融リテラシーを高める使い方はとても良いだろう。かくいう私も金融市場に興味を持つようになった30代の頃は、個別株だけでなく、アメリカ市場で先物やオプションなどのデリバティブを取引していた。
しかし、デビュー作である『マネーロンダリング』を上梓して以来、執筆活動をしながら毎日の為替や株価の値動きをチェックし続けることは難しくなった。もの書きとしての仕事と投資を両立させる才能がないことを痛感したので、2005~6年くらいにそれまでのポジションはほとんど閉じて、人的資本のすべてを執筆に一極集中させることにした。そうしたらはからずも、その直後の2008年に世界金融危機(リーマン・ショック)が起きた――。
それはある意味、運がよかったといえるだろうが、私が成長投資枠を使うつもりがないのは、あくまでこうした個人的な体験に基づいている。どの株やファンドに投資するかを考える時間コストが、今の自分のタイパの基準で無駄というだけだ。
先人の知恵を借りて新NISAを攻略
投資だけでなく、コスパ・タイパ・リスパの追求は人生の普遍的なテーマになりえるだろう。とりわけ重要なのはタイパで、誰にとっても1日は24時間しかなく、食事や睡眠、その他の雑用をのぞいたら、自由に使える時間資源なんてせいぜい1日に10時間程度しか残らない。
時間資源のすべてを仕事に費やすと、家族や友人、恋人と過ごしたり、趣味を楽しんだりする時間がなくなってしまう。その逆もまた然りで、これが現代社会で私たちが突きつけられるトレードオフのジレンマだ。
金融市場はほぼ1世紀にわたって数学の天才たちが研究し、そこから多くのノーベル経済学賞の受賞者を輩出した。私たちが浅知恵で考えたところで、それを超える投資戦略が思いつけるわけがない。そう考えれば、普通の人々にとっては、そうした先人たちの知恵を借りてコスパ・タイパ・リスパを最大化できるよう、新NISAのつみたて枠を上手に活用するのが、最良の攻略法となるだろう。
橘玲:作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎)でデビュー。同年刊行の『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。06年、『永遠の旅行者』(幻冬舎)が第19回山本周五郎賞候補。『言ってはいけない』(新潮新書)で新書大賞2017年を受賞。そのほか『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)、『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)などヒット作多数。
※本記事は取材対象者の知識と経験に基づいて投資の選定ポイントをまとめたものですが、事例として取り上げたいかなる金融商品の売買をも勧めるものではありません。本記事に記載した情報や意見によって読者に発生した損害や損失については、筆者、発行媒体は一切責任を負いません。投資における最終決定はご自身の判断で行ってください。
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