2人乗りのバイクの後部座席で、男は標的の車が現れるのを待っていた。2014年5月26日午前8時ごろ、北九州市小倉北区の砂利敷きの駐車場。フルフェースのヘルメットに黒ずくめの服は人目につく。近くの公園をバイクで周回し、時間を潰した。
男は中田好信。当時39歳。特定危険指定暴力団工藤会で、最高幹部の出身母体の田中組に属していた。
3日前、上位者の組幹部から、「黒のセルシオ」で来る男を襲撃してくれと指示されていた。度胸があるとして、上からの信頼が厚かった。組幹部は言った。
「尻かももをシャシャッと5、6回刺してくれ」
「そんなに緊張するな。殺すわけやないんやけ」
浅く、早く刺し、絶対殺すなという意味だと受け取った。相手の情報や、目的は何も聞かされなかった。街で組幹部ともめた素行の悪いチンピラだろう。そう考えていた。
同午前8時半。目当ての車が来た。中田はバイクを飛び降り、ポシェットから刃物を取り出した。駐車場に向かって少し駆けたところで相手の姿が見えた。車とは不似合いな若い男性。想像していた人物像とのギャップに頭が真っ白になり、思わずしゃがみ込んだ。
躊躇(ちゅうちょ)は数秒。利き手の右手で握った刃物で、車の脇に立ち、背中を向けていた男性を刺した。再びバイクに戻り、逃走した。予定通り実行できたと思った。上の指示は絶対だった。
実際は、男性は尻や背中、胸、腹など計8カ所を刺され、救命措置を受けなければ10分で亡くなる危険性もあった。太ももの傷の深さは、凶器の刃体の長さと同じ10センチ。指示よりも多く、深く刺していた。
組織犯罪処罰法違反罪などで懲役30年が確定している中田は、裁判で犯行時の心境を「普通の青年だったことに驚き、前後不覚、というかてんぱっていた」と振り返った。
重傷を負った当時29歳の男性は、工藤会と直接の接点がない歯科医師だった。事件の背景には、工藤会が長年こだわり続けた「海の利権」があった。
一審で死刑判決を受けた工藤会トップの野村悟被告(76)の控訴審が13日、福岡高裁で始まる。実行犯らへの指揮命令を認めた福岡地裁判決や裁判資料、関係者の取材を基に市民を襲撃した4事件を振り返る。
巨大な利権が眠る海
「やるしかねえやろ。息子を」
響灘に臨む北九州市若松区の沿岸。約2千ヘクタールの埋め立て地に...
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