順調な過程を歩んでいたわけではなかった。歴史的な一戦の裏側に迫る連載「G1ヒストリア」。今回はグランアレグリアが初のG1タイトルを獲得した19年の桜花賞を取り上げる。G1・6勝の歴史的名牝は、普通の馬とはやはり違った。藤沢和雄厩舎で担当していた渡部貴文調教助手(42=現蛯名正厩舎)は、G1勝利のために奔走した過去を振り返った。
ゲートに馬を入れた後、ゴール付近に向かうバスの中、渡部助手は場内実況に耳を傾けていた。「先頭8番のグランアレグリア、ゴールイン」。歓声とともに桜花賞の勝利を音で理解した。うれしさが込み上げてきた。「ホッとしたのが大きかったですね」。苦労が実った瞬間だった。
G1を6つも取るなんて夢にも思わなかった。入厩時の印象は「子どもっぽい小さな子」。期待は同期のコントラチェックの方が大きかった。それが新馬戦、サウジアラビアRCを連勝し、朝日杯FSへ挑戦した。それでもまだ壁があった。気性が難しかった。「人が触ると大汗をかいて、暴れ出して手をつけられなくなる。朝日杯の前ですから12月ですよ。扇風機をつけてましたからね」。人が近づくと落ち着きを欠くことの多かった馬が初めての関西輸送。大幅な体重減を覚悟せざるを得なかった中、結果はプラス6キロだった。3着に敗れたこの時に思った。
「この馬、普通とは違う」
明け3歳になり桜花賞へ直行した。勝利のために手を尽くした。なかなかカイバを食べてくれなかった同馬のため、藤沢和師に許可を取り、福島県のノーザンファーム天栄に餌の研究に向かった。「秋になれば食べるよ」と師は言ったが、いても立ってもいられなかった。結果的に飼料の内容はそこまで違いがなかった。「今のままでいいんだ、という確信になりました」。平成最後の桜花賞馬に輝いた後、背景を知っていたノーザンファーム天栄の木実谷場長から「おかげさまでG1を勝てました」と声をかけられた。そして師の言う通り、秋口には勝手に餌を食べ出したという。
その後の活躍は言うまでもない。「今まで見たことがない景色をたくさん見せてくれた」と感謝でいっぱいだ。桜花賞から4年近くたった今年1月、初子となる父エピファネイアの牡馬を出産した。最後に尋ねた。今度はグランアレグリアの子を担当したいか-。渡部助手は「できるのであれば、やりたいです。でも、またうるさかったら嫌ですね」と穏やかな笑顔を見せた。【阿部泰斉】
◆グランアレグリア 2016年1月24日、北海道安平町ノーザンファーム生まれ。父ディープインパクト、母タピッツフライ。鹿毛、牝。馬主は(有)サンデーレーシング。現役時代は美浦の藤沢和雄厩舎に所属し、18年6月にデビュー。JRA通算15戦9勝。G1・6勝は19年桜花賞のほか20年安田記念、スプリンターズS、マイルCS、21年ヴィクトリアM、マイルCS。マイルCS制覇を最後に現役を引退して、繁殖入りした。
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