<山にまつわるエトセトラ⑤>
今回はすごい女性を紹介します。世界に14座しかない標高8000メートル以上の高峰のうち13座の登頂に成功し、今年最後の1座、中国のシシャパンマに挑む看護師で登山家の渡辺直子さん(41)。「女性世界初」の偉業達成に向け、1月からインターネット上の応援購入サービス「マクアケ」で支援を募っています。全14座を制した登山家は「14サミッター(サミットは英語で「頂上」)」と称賛されますが、その偉業は「夢をかなえるための手段」とのこと。では、彼女の「夢」とは? 「デスゾーン」と恐れられる山々の何が彼女をひきつけているのか? じっくりお話を伺いました。(デジタル編集部・竹村和佳子)
◆「普通の看護師」が給料全額つぎ込んで
待ち合わせ場所に現れたのは身長156センチの小柄な女性。「私は普通の看護師」と謙遜するが、ヒマラヤ山脈に連なる標高8000メートル以上の巨峰をこれまで24回も登る=表=など、登山家としての経歴は「普通」から大きくかけ離れている。
挑戦を始めたのは20代半ばの頃。初めのうちは数年に1度のペースだった。看護師としての稼ぎを全額注ぎ込みながら「まず行ってみよう、難しかったら下りればいい、くらいの気持ち」でヒマラヤに通った。
転機は2019年。アンナプルナⅠ峰とカンチェンジュンガ、どちらも3度目の挑戦で日本人女性初となる登頂を成し遂げ、8000メートル峰は7座に達した。周りに14座制覇を目指す人がいたこともあり「私もできるのでは」と、当時アジア人女性にはいないとされていた14サミッターを目指すことを心に決めた。
20年は新型コロナウイルス禍でヒマラヤ全山が閉鎖されたが、21年にネパール、パキスタンの山々では規制が緩和され、渡辺さんは8座目となるダウラギリに登頂した。この頃、アジアの登山界で「大富豪の令嬢や、スポンサーをいっぱいつけた20代の若い人たち」という新手のライバルが次々登場しつつあることに気付いた。「私は20年近くかけて自分のお金だけでコツコツやってきたのに。この人たちには負けたくない」と負けず嫌いの虫が騒いだが、資金力の差はいかんともしがたかった。
一気に全制覇できなかったのは、渡辺さん側の事情ではない。唯一未踏のシシャパンマが、管轄する中国政府の厳しいコロナ対策で20年より入山禁止となっているためだ。ただ、中国は22年秋に「ゼロコロナ政策」を転換しており、今年は入山禁止が解除される可能性がある。
◆「本当の頂上」とは? アジア初→世界初へ
これまで女性の達成者は欧州勢の3人とする説が有力で、渡辺さんは「アジア人初」を目指していた。だが、この研究結果によれば3人とも頂上を間違えた山が含まれており、女性14サミッターは現状いないことになる。渡辺さんはいち早くシシャパンマの頂上を踏み、「本当の頂上で14サミットを制した世界初の女性」となるつもりだ。
8000メートル峰の登頂は、管轄する国の政府が認定するが、誤認や誤差も多く、一括してデータを管理している公的機関はない。「8000ers.com」は政府発表のデータなどを元に登山家やシェルパなどへの聞き込み、写真や動画を精査してドイツ人男性らが管理しているデータベースだ。
同サイトの信頼性について、山岳雑誌「山と渓谷」や「PEAKS」の編集にも関わってきた山岳ライターの森山憲一さんは「運営しているのは個人だが、情報の網羅性と正確性はかなり高く、世界の登山メディアが参考にしているサイト。今後多くの人の検証が必要になるだろうが、昨年の研究結果もおそらく正しいだろうと思われている」と評価。渡辺さんについては「すばらしい挑戦。(成功すれば)女性初の『完全』達成者とみなされる可能性はある」と期待を込めた。
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