「バカヤロー」キャラで74年やってきた泉谷しげるさんの新書『キャラは自分で作る―― どんな時代になっても生きるチカラを』より、泉谷さんの熱い「キャラ論」をお届けします!
チンギス・ハーンは大したもんだ
尊敬する歴史上の人物は、チンギス・ハーンだ。チンギス・ハーンはモンゴルの少数部族を統一した偉い武将で、すごくいいキャラクターをしているんだ。彼が野望を果たせた理由のひとつを紹介しよう。
チンギス・ハーンは、大部隊を率いた時に、ごく普通のヤツを各部隊の隊長に任命したんだ。屈強な英雄じゃなくて、取り柄のない、ごくごく普通のヤツ。最初のうちは隊員から、「ふざけんな」って文句が出てきた。「もっと強いヤツを隊長にしたほうがいい。あんな隊長の下では働けません」ってな。
チンギス・ハーンはその言葉に怒って、「いいから、アイツにやらせておけ!」って人選を変えなかったんだよ。で、屈強でチカラのあるヤツは隊長になることができずに、ソイツの部下になって、渋々戦ったんだ。
普通のヤツをトップにする戦術は、見事にハマった。チンギス・ハーンの軍勢は連戦連勝で、モンゴルの統一を果たしてしまったんだ。
どうしてチンギス・ハーンが勝ったか。それは、隊長が普通の人間だったからなんだ。普通の人間だから、普通の行動しかできないんだよな。何キロも歩いたら「休もう」と思うし、お腹が減ったら「ご飯を食べよう」と考える。普通のことを当たり前のようにやっただけなんだよ。
逆によ、もし屈強な英雄タイプの人間が隊長になったら、どうなるか想像してみろ。何十キロも歩き続け、メシより戦を優先するだろ。英雄タイプの隊長は欲深いから、手柄を立てて出世したい。無理を承知で、突っ込んでいくワケよ。
そんな隊長の下につくと、部下はまいっちゃうだろ。休憩もとれず、満足にご飯も食べられない。疲弊して、最終的には命を落としてしまう。英雄は体力自慢のバカが多いからな。それを、チンギス・ハーンはわかっていたんだから、大したもんだ。
「バカヤロー」キャラの手本、孫悟空
空想の生き物だが、チンギス・ハーンと同じくらい孫悟空も好きなんだ。ガキの頃から憧れている。ハチャメチャで、とにかく無礼で態度が悪くて、口は悪いけど憎めません、みたいな。まあ、言ってみれば、オレの「バカヤロー」キャラの手本。とにかく孫悟空のようになりたいと思って生きてきたんだ。
でも、実際のオレは正反対で、弱さのオンパレードなんだから、自分が嫌でしょうがなかった。船酔い、車酔い、神経質、赤面症。そういうの、全部やっているんだな。中学の頃は、もう本当にたいへんだった。なにしろ、デパートの屋上にある車の乗り物で酔っちゃうんだから。バスも電車も、ジェットコースターも全部ダメ。
それと注射も苦手で、今でも大っ嫌い。病院に行くたび、看護師さんに「フフフ」と笑われる。あのチクッとくる痛み、何度やっても慣れない。本当に痛いんだ。
でも、そんな弱虫では孫悟空のようには生きていけない。そう、本気で思ったんだ。特に音楽で生きていくなら、肉体的にも強くないとやっていけない。ミュージシャンには不良っぽさとワイルドな強さが必要だろ。弱っちい男が熱いメッセージを叫んでも、誰も聴いてくれないからな。
それによ、不良のエネルギーっていうのは、色気なんだ。その色気に女が惹かれて、ついてくるんだからさ。まずは肉体をなんとかしねえとダメだと思ったんだよ。
なんとかするには、特訓しかねえ。時間があれば、海へ出かけた。ボートの先っちょに乗って、ザップンザップンと波に揺られるんだ。船酔いしてゲーゲー吐いて、ちょっと休んで、またボートに乗る。
電車に乗ったら連結部に立って、必死に踏ん張った。それで足腰を鍛えたんだよ。車でも窓を開けて、なんとか吐き気をこらえるように頑張ったんだ。
そして、まあ、完全とは言えないまでも、平均的な人と同じくらいには、大丈夫になった。今じゃあ、家族の中でジェットコースターに乗れるのはオレだけだからな。
オレが言いたいのは、ただボヤッと体を鍛えるだけじゃ、何も成し遂げられねえってことだ。人は、はっきりした目標があるから頑張れるんだ。その目標っていうのが、オレにとっては空想の人物(猿)ではあるが孫悟空だったんだ。
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普通の
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