「金銭面不安」低い進学率
虐待や死別などのため親元で暮らせない子どもたちを社会の中で育てる「社会的養護」。全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数が二〇二〇年度に初めて二十万件を超え、子どもを取り巻く環境は深刻となっており、社会的養護の必要性は増している。来年四月に、子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」が発足するのを前に、必要な支援のあり方を北陸の現場から探る。みんなと同じように暮らしていきたい−。実親による虐待やネグレクト(育児放棄)に遭った高校生の優紀さん(17)=仮名=は、北陸地方のある自立援助ホームで生活している。将来を考える中で思い描くのは、「普通に進学し、普通に就職すること」だ。
優紀さんは数年前に要保護児童として児童相談所に保護された後、このホームに入所した。虐待によるトラウマ(心的外傷)を負った関係で、現在も定期的に専門医の治療を受けている。
「心の傷は今も残っている」。ただ、支援者らとの交流を通じて、苦手だった自己表現もだんだんとできるようになった。「今自分が前を向けているのは、支えてくれる人のおかげ」と感謝を口にする。人と交流する中で苦しみが癒えていくことを実感し、将来は「人と関われる仕事につきたい」と語る。読書も好きで、小説家も夢だ。
国語や英語が得意で、高校卒業後は進学を見据える。親元に戻る予定はなく、経済的な援助は望めない。休日はアルバイトに励み、学費や運転免許取得のためお金をためる。「金銭面で不安に感じる。誰もが行きたい学校に行けるようになってほしい」と話す。
厚生労働省によると、一九年度末に高校を卒業した児童養護施設出身者の大学進学率は17・8%で、高校卒業者全体(52・7%)の三分の一程度。高校卒業後の進学率は一般よりも低く、就職が多い。日本学生支援機構は奨学金制度を設けているが、成績次第で支援が打ち切られる可能性がある。一部の私立大には施設出身者を対象に、学費を免除した上で奨学金を給付する制度があるが、全国的な広がりはみられない。
こども家庭庁が掲げる基本方針は「社会的養護下にある子どもの権利を保障し、子どもの意見に耳を傾けて改善に取り組む」としている。優紀さんを受け入れたホーム代表の男性は「何もぜいたくを言っているわけではなく、ホームや施設の出身者が『並』の生活を送れるようになってほしい。そのためには公的な支援の充実が欠かせない」と注文する。
立ちはだかる障壁は多いが、優紀さんは前を向く。「普通に就職し、ちゃんとした家庭を持ちたい。そして、自分が親にはしてもらえなかったことを、子どもにしてあげたい」
国のまとめでは、児童養護施設などで暮らす子どもは二〇年度時点で富山県内で百一人、石川県内で百二十人。
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