永浦百音は「普通の」ヒロインだ。
NHK連続テレビ小説104作目となる『おかえりモネ』。第3週「故郷の海へ」では、百音(モネ=清原果耶)が気仙沼の実家に帰省し、両親や幼なじみと過ごす様子と彼女の過去が描かれた。
3週にわたり『おかえりモネ』を視聴して感じたのが、丁寧に練られた安達奈緒子の脚本と、それを映像に映し取る演出スタッフの完璧な連携。登場人物の些細な表情の変化やふと映し出されるレシートの金額、手書きのアドレス帳から二重線で消された名前と仮設住宅、旧友の背中にそっと添えられた手。そんな一瞬の映像からさまざまな物語が浮かび上がる。それらは説明的なせりふの多用よりずっと雄弁だ。
そして、本作の大きな特徴のひとつが、ヒロインのキャラクター。
幼い頃から両親と祖父母に愛され、自然豊かな島で明るい幼なじみに囲まれて育ったモネ。極度の貧困や暴力、いじめや不登校といった暗い要因もなく、かといって、職場の森林組合や地元の同級生たちに持ち上げられていたり、アイドル的人気を誇っているわけでもない。
たとえば、学校行事で登米の森に訪れ、山中で遭難しかけた小学生を無事に連れ帰ったモネに対し、医師の菅波(坂口健太郎)はこう言い放つ。「つまるところ、永浦さんは何もしていませんから」「あなたのおかげという言葉は麻薬です」。通常の朝ドラであれば、地元の人々から「モネちゃん凄い」「モネちゃん偉い」と称賛の声が沸き上がるところだが、本作にはそういう空気がまるでない。
また、気仙沼の同級生たちの中でのモネの立ち位置も興味深い。ここでのキラキラ担当は明日美(恒松祐里)で、モネはにこやかに幼なじみの話を聞きつつ、時に軽くツッコミを入れる係。天然系モテ男子のりょーちん(永瀬廉)との距離感もジャスト元同級生だ。
特別目立つ存在でも、集団に馴染めないわけでもない「いたって普通の19歳」。そんなヒロインの存在が、じつは本作『おかえりモネ』の“肝”なのだと思う。
モネは父・耕治(内野聖陽)の影響で幼い頃から楽器に興味を持ち、演奏活動を続けていたが、高校の音楽コース受験で挫折。それでも音楽が好きだという気持ちを封じ込められないと彼女が思った瞬間に、2011年3月11日、14時46分が訪れる。
これは再生の物語だ。が、同じく東日本大震災の被害にあった人々の再生を描いた『あまちゃん』(2013年・NHK総合)と異なるのは、『あまちゃん』が震災以前、震災、震災直後と、時間軸が基本そのまま進行する作品だったのに対し『おかえりモネ』は震災の3年後から物語がスタートし、2011年のことは回想という形で語られる点。
『あまちゃん』のヒロイン、天野アキ(能年玲奈)が、自分に生きる場所を与えてくれた南三陸の復興を、さまざまな意味での“アイドル”として後押ししようとするには、あのパワフルな明るさが必要だった。しかし、3月11日の14時46分に友や祖父母、母、妹と同じ場所にいられなかったことが傷になっているモネは違う。あの日から3年の月日が流れ、日常を取り戻せた人、未だ大きな傷を抱えている人、自分を責め続ける人、忘れようとする人……言葉にできない壮絶な出来事を経て、それぞれ別の道を歩んでいる人たちの中でモネの「普通さ」はとても大事だ。周囲を巻き込み何かを変えるのではなく、あの日、自分ができなかった「誰かの役に立つこと」を静かに探し続ける彼女の姿は私たちに多くのことを語りかけてくる。
からの記事と詳細 ( 清原果耶が体現する“普通の”朝ドラヒロイン 一瞬の映像にも気を抜けない『おかえりモネ』 - リアルサウンド )
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