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Wednesday, March 10, 2021

普通の日 YU SORA個展 - インターネットミュージアム


《普通の日》インスタレーション 布、糸、紙 プラスチック 2019-2021(一部)蔵

朝早く、まだ誰も出社していない事務所が好きでした。電話、パソコンや書類など、いつもと違った空気を纏っているのを感じながら、しんとした静けさの中、デスクに座っているといつの間にか、ルーティンワークやその日のすべき業務などが頭の中で流れ始めます。

非日常な朝のひとときが徐々にいつもの日常になる、この2つの時空間をワープする感覚を楽しんでいたのだと思います。


《普通の日》インスタレーション 布、糸、紙 プラスチック 2019-2021(一部)

韓国出身のユ・ソラ(YU SORA)が創る真っ白な空間は、私にそんなことを思い出させてくれました。現在、尼崎市にあるあまらぶアートラボでは、彼女の個展「普通の日」が開催中です。

日常をテーマとした作品を制作するユ・ソラは、家の中にあるものや姿を通して人の存在や生きている時間を表現しています。

《普通の日》というタイトルのインスタレーションは、真っ白な部屋が舞台です。ベッド、積まれた本、テイクアウトした紙コップのコーヒーやデリバリーされたピザ……原寸大に作られたものが白い布で作られていて、それぞれに黒い糸の刺繍が施されています。

白と黒だけの表現は、無機質に思えるかもしれませんが、身近にあるものだからでしょうか。気持ち柔らかくなっていきます。白い色は色づき始め、そこに住む人の気配さえも感じ始めます。


《普通の日》インスタレーション 布、糸、紙 プラスチック 2019-2021(一部)

彼女の作品の特徴の1つは、長くのびたままの黒い糸です。時には絡み合っている黒糸は最後の処理がされていません。結び目のない糸を引き抜くと、そこには白い布だけが残ることになるのです。

会場で流れているインタビューで、ユ・ソラは、災害の体験や事故などのニュースを知る中で「消えてなくなること」を敏感に感じるようになっていったと話しています。微風に揺れる、垂れた黒い糸が切なく見えます。日常が消えてしまう怖さが表れているようです。


《普通の日》mixed media 2019

「普通の日」は、淡く消えてしまうものなのでしょうか。黒い糸が抜かれた白い布にじっと顔を近づけると、針の跡があることに気づくはずです。指先にボコボコとした触感を感じることもあるでしょう。

遠くから見ている人にはわからなくても、間近で見た本人には分かる、それがユ・ソラが表現する「普通の日」なのかもしれません。そして小さな縫い跡は、「普通の日」を特別にしてくれます。


《sekaido》mixed media 2014

ユ・ソラの作品は日常を通して「生」を感じさせてくれます。「普通の日」は毎日を生きること。そして、それだけで十分なのだと優しく言われているように感じるのでした。

[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年2月27日 ]

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