何気ない日々にこんなにも愛おしいドラマがある──そんな事実を教えてくれるのが、野原家の日常を描いた人気マンガ『クレヨンしんちゃん』。特別な事件が起きるわけではないのに愛されるのは、野原一家が普通の日々の大切さを教えてくれるからでしょう。その1つが「納豆」を巡るエピソードです。
納豆の食べ方には一家言あるしんのすけ。朝の食卓に出てきた納豆に祖父の銀の介が生卵を入れようとしたところ、「納豆はタレとネギだけでうまくやっていけるのに、よそ者を入れるなんて」と猛反発。そこに突然やってきたお隣さんのミッチーとヨシりん夫婦も加わり、「納豆に生卵を入れる派VSタレとネギのみ派」の対決が勃発します。
そんな中で事情を知らないひろしが食卓にやってくると、「久しぶりに生卵を入れてみるか」と生卵入りの納豆を食べ始めます。「普段は納豆とネギだけ、精をつけたいときは生卵を入れる」と自分の健康状態によって納豆の食べ方を使い分けているというのです。こだわりを持ちすぎず、良いところを柔軟に取り入れるひろしのスタイルに全員が感動し、納豆の食べ方をめぐる論争は終結しました。
「ビデオカメラ」でも事件は起きます。大イベント、ひまわりの出産。しんのすけは出産の瞬間に間に合わないひろしに代わり、その様子をビデオカメラで撮影しようと試みます。しかしひまわりが生まれてくる瞬間、必死に頑張るみさえの姿や赤ん坊の産声に感動するあまり、しんのすけはファインダーを覗くことを忘れ、レンズを足元に向けたままにしてしまいました。
「ここぞ!」というときほど、うまくいかないことはあるものです。実際、出産の知らせを受け慌てて会社から駆けつけたひろしは、肝心な場面でしんのすけの足元しか映っていないビデオを観ることになりました。しかし、それでもひろしは感動して涙するのです。むしろ撮影に失敗したことで、かえって忘れられない思い出になった感すらあります。いつか成長したひまわりと一緒に見返したときも、同じようにひろしはこのときの感動を語るのでしょう。
そして、「100円」のエピソードは、“嵐を呼ぶ園児”としていつも問題を起こすしんのすけの心根の優しさを表すものです。ある日、遠足のおやつを買いに行ったしんのすけとマサオくん。しかし、マサオくんはママにもらったお小遣いから100円を紛失してしまいます。「ママにバレたら怒られる」と泣くマサオくんに、しんのすけは何も言わずに自分のお釣りから100円玉を差し出しました。
てっきりお釣りを自分で使ってしまったものと勘違いしたみさえに叱られても、目に涙をにじませながら何も事情を明かさないしんのすけ。すると、「今夜は家に入れないからね!」と怒るみさえのもとに、マサオくんとママが100円を返しにやって来ます。みさえは息子の友達思いの行動を知り、「ゴメンね、うたがったりして」と、しんのすけを抱きしめるのでした。
自分のことはさておき、困っている友達を助けてかばうことは簡単にできることではありません。本当の優しさとは見返りを求めるものではなく、相手のためにやってあげたいという献身的な気持ちから生じるもの。日常のさりげないひとコマではありますが、しんのすけから大切なことを学ぶことができるエピソードです。
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