驚天動地の事態「総額ありき」であってはならない
驚きである。抜本的な安全保障政策の変更が、これほど短期間に、さしたる反対の動きもなく、進められていくのは長年日本の安全保障問題に携わってきた者からすれば、驚天動地の事態だ。
日本のあり方を変える幾つかの論点がある。まず、1976年に三木武夫内閣により閣議決定された防衛費の国内総生産(GDP、当時は国民総生産=GNP)比1%枠は近年撤廃されたとはいえ、過去50年近く、ほぼ1%に抑えられてきた。これがアジア諸国の日本への安心感につながった。
ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍事的台頭、台湾海峡での緊張増大、北朝鮮の度重なるミサイル発射など日本周辺の安全保障環境は悪化しており、防衛能力を拡大すべきことに異論はないが、岸田文雄首相が唐突に、2027年度までの防衛費総額を43兆円とし、GDP比2%に到達すべきことを閣僚に指示したことは尋常ではない。
現行の防衛費に何が欠けているのかといった緻密な議論なく、また厳しい財政事情の中で、社会保障経費などとのプライオリティー比較の議論なく「防衛費の総額」ありきの指示には本当に驚く。
「普通の国」への道のりなのか
防衛費の額と同時に徐々に明らかとなってきた膨大な防衛費の積み増しで変えようとしている装備の内容を見ると、やはりこれは戦後続いてきた日本の防衛上の「制約」を破り「普通の国」へと向かう試みであることがわかる。
例えばミサイル防衛についてはこれまで高い高度で飛ぶ敵のミサイルをイージス艦で探知し迎撃する、さらにはパトリオットミサイルで対処する、というように、あくまで発射されたミサイルを「迎撃する」というシステムであった。
それを「反撃能力保有」の名の下に、敵のミサイル発射の兆候をつかみ長射程のミサイルを発射し、相手の領域においてミサイルを無力化するというシステムを導入しようとする。
このようなミサイルの導入に5兆円を超える予算を割り当てることが検討されているという。また「能動的サイバー防御」として防衛出動前に相手国のサイバーシステムを攻撃することを想定している。
今日能動的に行動することが適切であるとしても、明確な歯止めが必要だ。二つの論点がクリアにされねばならない。
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