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Thursday, May 6, 2021

事故死した無戸籍「母」の遺体引き取れず…理不尽さ感じた娘「母の人生知りたい」 - 読売新聞

 交通事故で死亡した「育ての母」が無戸籍だったことから、事実上の娘(43)が遺体を引き取れず、事故の裁判で遺族として発言できなかったケースが福岡市であった。家族関係が法的に認められていないためだ。娘は「母の人生を知りたい」として、過去を知る人からの情報を求めている。無戸籍者は全国に871人(3月10日現在)確認されており、様々な場面で不利益を被るなど社会問題化している。(河津佑哉)

 母は約40年前、事実婚状態となり同市内で暮らし始めた。以前は「田中美香」と名乗っていたが、娘の父の姓に合わせて「濱名」姓に変えた。自称1949年3月生まれ。この通りなら69歳で亡くなったことになる。

 2018年12月4日夜、自宅近くの道路を横断中に車にはねられた。「身元を示す物がなく、携帯の通話履歴から連絡しました。ご家族ですか」。消防からの電話を受けた娘が「戸籍上の家族ではない」と答えると容体すら教えてもらえなかった。翌日未明、今度は警察からの連絡で亡くなったことを知る。その際、戸籍がないことを知らされた。「考えたこともなく、『まさか』という感じだった」

     ◇

 「生い立ちを話さない人だった」と娘は振り返る。30歳のとき、自身の戸籍に母の名前がないことに気づき、事情を聞いたところ、「いろいろ大変だから」とはぐらかされた。昨年病死した父から娘が聞いた話では、結婚式に母の親族は誰も出席せず、婚姻届の提出を求める父には「事情があって戸籍が出せない」と言い続けたという。

 娘はシングルマザーだった父の妹の子として生まれ、84年に養子になった。それからは「ごく普通の3人家族」として暮らしてきた。「弁当も毎日作ってくれたし、学費も工面してくれた。本当にいい母親だった」

 娘は事故後、様々な場面で無戸籍者が置かれた現状の「理不尽さ」を痛感した。

 身元確認ができず、すぐに遺体を引き取れなかった。代わりに葬儀社が引き取り、葬儀を執り行えたのは約10日後。ただ、遺体の状態が保てず、死に顔は見られなかった。福岡市によると、病死の場合でも無戸籍者の遺体は引き取りに相当の時間がかかるという。

 自動車運転死傷行為処罰法違反で起訴された事故の加害者からは、母について「身元も分からないんでしょう」とやゆされた。娘は裁判で、被害者参加制度を使って遺族としての思いを述べたかったが、「戸籍上の家族ではない」としてかなわなかった。

 娘の代理人弁護士は「やむを得なかったのかもしれないが、普通の家族関係を築いていたので残念だった」と振り返る。加害者には執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。

 娘は警察を通じ、母が口にしていた出身校などを調べたが、手がかりはなかった。福岡県警の公式サイトには、身元不明死者の一人「識別番号31―2」として身長や事故当時の服装などが掲載されているが、こちらにも有力な情報は寄せられていない。無戸籍の理由もわからないままだ。

 無戸籍者が生まれる背景には、離婚後300日以内に生まれた子を前夫の子と推定するなどとした民法の「嫡出推定」や、戦時中の空襲で役所の資料が焼失したことなどがある。

 戸籍がない人は原則、住民登録やパスポートの取得ができず、婚姻届の受理に手間がかかるほか、就職で不利になることもある。

 嫡出推定は明治時代からの制度で、妻が推定の適用を避けるために出生届を出さないことが多い。法務省によると、全国の無戸籍者871人のうち約7割がこのケースにあたる。法制審議会の部会は2月、嫡出推定の見直しに向けた中間試案をまとめた。妻が再婚した場合、離婚後300日以内に生まれた子でも、再婚後の夫の子と推定するなどの例外規定を設けている。

 「無戸籍問題を考える若手弁護士の会」代表の高取由弥子弁護士は「本人には何も責任がないのに、無戸籍者は社会の無理解や偏見にさらされている。行政や司法は、不当な扱いを受けないような対応が求められる」と指摘している。

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