富士通クライアントコンピューティング(FCCL)のLIFEBOOK UHシリーズは、13.3型液晶ディスプレイを搭載する超軽量のモバイルノートだ。
約634gの世界最軽量を謳うLIFEBOOK UH-X/E3が有名だが、ここでは同一シリーズのRyzen 7 4700U搭載モデル「LIFEBOOK UH75/E3」をレビューする。
ディスプレイ出力、7.5W充電も可能なType-Cを2基搭載
筐体側面には、USB 3.1対応のType-Cポートを2基装備。2基ともディスプレイ出力(DisplayPort Alt Mode)とUSB Power Delivery(PD)での充電/給電に対応しており、ACアダプタ接続用端子も兼ねている。付属のACアダプタもUSB PD対応で、出力仕様は最大45W(20V/2.25A)となっている。
USB PD対応なので、市販されているUSB PD対応の汎用ACアダプタ/モバイルバッテリの利用も可能(動作保証は純正品のみ)。パソコンを利用しながらの充電は45W(20V/2.25A)以上、パソコンを使用しない状態であれば、7.5W(5V/1.5A)以上の出力があれば、充電可能だ。いざというときには汎用品、しかもスマートフォンなど出力の低いACアダプタ/モバイルバッテリでも充電できるのは非常に心強い。
さらに、USB 3.0のType-Aを2基、HDMI出力、ヘッドフォン/マイク兼用端子に加えて、Gigabit EthernetやSDカードスロットまで備える。SDカードスロットの対応速度は明記がないが、手持ちのUHS-IIカードでテストしてみた結果から、UHS-I(SDR50)対応と思われる。UHS-I(SDR104)やUHS-IIに対応していない点はやや惜しいが、筐体のサイズと重量からは、驚くほどの充実の装備だ。
カバーつきのWebカメラ、指紋センサーも搭載
さらに、画面の上には約92万画素のWebカメラ、デジタルマイクを搭載する。Webカメラは物理シャッターつきで、使わないときには物理的にカメラを隠せる。リモートで盗撮されている不安を防げる。
また、電源ボタンにWindows Hello対応の指紋センサーが内蔵されており、一度指紋を登録しておけば、ロックされた状態からパスワード入力なしでスピーディにログインできる。試用してみた印象ではセンサーの感度も非常に良く、登録も認証もスムースでストレスをまったく感じることがなかった。
8コア8スレッドのRyzen 7 4700Uを搭載
CPUはRyzen 7 4700Uを搭載している。モバイル向けのTDP 15Wモデルながら8コア8スレッド、最大周波数4.1GHzのパワフルな仕様を持ち、モバイル向けとしては随一のマルチスレッド性能を持つ。
自作パソコン市場を席巻しているRyzenシリーズだが、モバイルでの採用例はまだ少なく、採用されていても低価格モデルが中心で、重量も重めの製品が多い。IntelのTiger Lakeと同じ世代の超軽量筐体を搭載した本製品は非常に貴重な存在だ。
実際にどの程度の性能が発揮できるかは熱設計などに左右される部分もあるが、そのあたりは後ほどベンチマークテストでチェックしたい。
8GBのメモリと256GBのストレージ構成
グラフィックス機能はCPU内蔵のRadeon Graphicsを利用する。IntelのIris Xe Graphicsほどではないものの内蔵GPUとしては高い性能を持っている。
内蔵GPUの性能はメモリ性能にも左右されるが、メモリもデュアルチャネル対応のLPDDR4X-4266を採用しているため、GPUのポテンシャルは最大限発揮できるだろう。
メモリ容量は8GB固定。オンボードのために増設はできない。ストレージはPCIe 3.0x4(NVMe)対応のSSDを256GB搭載する。カスタムメイドには対応しておらず、仕様はこれで固定となっている。せっかく高性能なCPUを搭載しているのに、この仕様では用途がビジネス向けに限定されてしまう。この点は少し残念だ。
なお、本製品は「川崎フロンターレ One Four KENGOモデル」のベースモデルとなっており、そちらはカスタムメイドに対応しており、メモリ16GBやストレージ512GBの構成を選ぶことができる。
打ちやすさに配慮したフルサイズキーボードを搭載
ゆとりのあるフルサイズキーボードを搭載しているのも見逃せない。主要キーのキーピッチは縦横とも約19mmを確保している。配列も工夫されており、右Altキーを省く一方、BackSpaceキーとEnterキーなど小指で操作する両端のキーを大きく確保し、さらにカーソルキーを一段下げて配置するなど、日本人にとって使いやすい配列を採用している。
キーストロークは約1.5mmと薄型軽量ノートパソコンとしては十分な深さがあり、スイッチの感触も、クリック感がありながら反発が強すぎない程度に調整されており、長文入力しても疲れにくいだろう。筐体が軽いためか押下時に少しスカスカとした音がするが、特別静かなところでなければとくに気にならないだろう。これだけの薄型軽量筐体でこれだけの入力環境を用意しているのは見事だ。
キーボード手前のタッチパッドは、入力ミスのしにくい2ボタン式だ。高精度タッチパッドに対応しており、OS標準の便利なジェスチャー機能も利用できる。
最軽量クラス随一のマルチスレッド性能
ベンチマークテストの結果を掲載する。参考までに、以前にレビューした日本HPのZBook Firefly 14 G7 Mobile Workstation(以下ZBook Firefly 14 G7)、筆者所有のThinkPad T480s(2018年発売)の結果も合わせて掲載するとともに、平澤寿康氏がレビューしたLIFEBOOK UH-X/E3(634gの最軽量モデル)の結果も転記した。
UH75/E3 | UH-X/E3 | HP ZBook Firefly 14 G7 Mobile Workstation ハイパフォーマンスモデル |
ThinkPad T480s | |
---|---|---|---|---|
メーカー | FCCL | FCCL | 日本HP | レノボジャパン |
CPU | Ryzen 7 4700U | Core i7-1065G7 | Core i7-10810U | Core i5-8250U |
メモリ | 8GB(LPDDR4X-4266) | 8GB(LPDDR4X-3733) | 32GB(DDR-2400 16GB×2) | 4GB+16GB(DDR4-2400) |
ストレージ | Samsung PM991(256GB、PCIe 3.0x4) | SSD(1TB、PCIe 3.0x4) | キオクシア KXG60PNV2T04(2TB、PCI Express 3.0x4) | WD Blue 3D NAND SATA SSD(1TB、SATA 6Gb/s) |
グラフィックス機能 | Radeon Graphics (CPU内蔵) | Iris Xe Graphics(CPU内蔵) | Quadro P520(4GB) | UHD Graphics 620(CPU内蔵) |
OS | Windows 10 Pro 64bit(20H2) | Windows 10 Pro 64bit | Windows 10 Pro 64bit(2004) | Windows 10 Pro 64bit(20H2) |
備考 | - | 平澤寿康氏のレビューからの転記 | 2020年10月掲載のレビューで計測 | 2019年2月購入(2018年発売モデル) メモリ増設、SSD交換 |
UH75/E3 | UH-X/E3 | HP ZBook Firefly 14 G7 Mobile Workstation |
ThinkPad T480s | |
---|---|---|---|---|
Cinebench R20 | ||||
CPU | 2,415 | 1,980 | 1,967 | 1,201 |
CPUシングルコア | 476 | 550 | 428 | 348 |
Cinebench R23 | ||||
CPU(Duration Off) | 6,717 | - | - | 3,160 |
CPU(10 minutes) | 5,870 | 4,795 | - | 3,138 |
CPUシングルコア(Duration Off) | 1,207 | - | - | 893 |
CPUシングルコア(10 minutes) | 1,210 | 1,415 | - | 895 |
PCMark 10 | ||||
PCMark 10 | 4,994 | 4,961 | 3,965 | 3,590 |
Essential | 8,793 | 10,105 | 7,885 | 7,322 |
Productivity | 7,456 | 6,897 | 6,606 | 5,785 |
Digital Content Creation | 5,157 | 4,756 | 3,247 | 2,964 |
PCMark 10 MODERN OFFICE BATTERY LIFE | ||||
SCORE | 11時間51分 | 6時間11分 | 7時間14分 | - |
Battery Life Performance | 4,661 | - | 5,715 | - |
3DMark | ||||
Time Spy | 1,149 | 1,771 | - | - |
Graphics | 1,012 | 1,608 | - | - |
CPU | 4,982 | 4,177 | - | - |
FireStrike | 3,101 | - | 2,951 | 1,054 |
Graphics | 3,429 | - | 3,178 | 1,127 |
Physics | 13,870 | - | 15,122 | 8,384 |
Combined | 1,077 | - | 1,077 | 377 |
Night Raid | 13,327 | 16,500 | - | 5,214 |
Graphics | 14,074 | 21,327 | - | 5,326 |
CPU | 10,246 | 7,299 | - | 4,663 |
FINAL FANTASY XIV : 漆黒のヴィランズベンチマーク | ||||
1,280×720/ノートPC標準/ウィンドウ | 6,799 | - | 12,984 | 3,758 |
ローディングタイム(秒) | 21.876 | - | 13.148 | 47.158 |
1,920×1,080/ノートPC標準/フルスクリーン | 4617 | - | 7446 | - |
ローディングタイム(秒) | 25.351 | - | 12.446 | - |
Premiere Pro(秒) | ||||
4Kプロジェクト書き出し(HW、H.264) | 733 | - | 580 | 1,643 |
Lightroom Classic(秒) | ||||
RAW→JPEG | 235 | - | - | 425 |
動作音(dB、室温22℃、前面から5cmで測定) | ||||
暗騒音 | 31.8 | - | - | - |
アイドル時 | 31.8 | - | - | - |
Premiere Pro書き出し時 | 38.4 | - | - | - |
Cinebench R20のCPUスコアは、2,415pts。6コア12スレッドのCore i7-10810U搭載のZBook Firefly 14 G7、Tiger Lakeの主力モデルであるCore i7-1065G7搭載のUH-X/E3のスコアを大きく上回っており、最軽量クラス随一のマルチスレッド性能を実証している。
ただ、CPUシングルコアのスコアは逆に最新のIntel CPU搭載機にはおよばない結果となっている。もっとも、約3年弱前のモデルであるThinkPad T480sにはCPU、CPUシングルコアともに大差をつけている。
Cinebench R23は、10分間実行し続けてスコアを出す標準のテスト(10 minutes)のほかに、1回だけ実行するオプションを有効にした場合(Duration Off)でも実行してみた。
マルチスレッド性能を見るCPUスコアは、10分間負荷をかけ続けた状態のほうが14%ほどスコアが低いが、それでもCore i7-1065G7搭載のUH-X/E3には完勝だ。一方、CPUシングルコアでは負荷時間による差はないが、こちらはUH-X/E3には少しおよばない結果となっている。
システムの総合性能を見るPCMark 10のスコアは、総合スコアで見るとCore i7-1065G7を搭載するUH-X/E3とほぼ同じだが、Webブラウズやビデオチャットなど日常操作系のEssentialsで強いUH-X/E3に対し、オフィス作業を想定したテストであるProductivity、クリエイティブアプリを利用してコンテンツ制作を行なうDigital Content Creationでは本製品が完勝している。
ここでもマルチスレッド性能に強いRyzen Mobile、シングルスレッド性能に優れるTiger Lakeといった傾向が反映されているが、ZBook Firefly 14 G7やThinkPad T480sには3項目ともに完勝しており、シングルスレッド性能も優秀であり、日常操作系のアプリも快適に利用できることには違いない。
また、3DMarkのスコアを見ると、やはり3D描画系のテストではTiger LakeのIris Xe Graphicsが強い。それでもThinkPad T480sの3倍前後のスコアをマークしており、モバイルノートとしては高いレベルのグラフィックス性能を持っていることには違いない。
Lightroom Classic CCでは、ソニーのα7RIIIのRAWデータ(4,240万画素)を100枚使用。現像パラメータのプリセットを適用し、長辺3,000ピクセルのJPEGファイルに書き出す時間を計測した。ビデオ編集ソフトのPremiere Pro CCでは4Kの8本のビデオクリップを編集した約5分間のプロジェクトを書き出した。本製品のメモリは8GBなので不利ではあるが、いずれもThinkPad T480sには大差をつけて勝っている。
バッテリ駆動時間は実働12時間弱、静音性、放熱設計も優秀
バッテリのテストとしては、PCMark 10/Modern Office Battery Lifeを実行した。バッテリの設定は「よりよいバッテリー」、ディスプレイの輝度は50%としている。結果は11時間51分と十分な駆動時間だ。
なお、Battery Life Performanceのスコアは4661と、ZBook Firefly 14 G7に比べて低い。このテストはIntel CPUが強いEssentialsに含まれるテスト中心に構成されているので、そのあたりが出ている面もあるだろう。
静音性も優秀だ。アイドル時はほぼ無音。高負荷時も穏やかに上昇する程度にとどまる。筐体の発熱は排気口があるヒンジ奥は熱くなるが、Fキーのキートップの温度は35.7℃と体温程度。パームレストは全域25℃以下とクールなままだった。放熱設計も優秀と言える。
ビジネスモバイルとして見事な完成度
FCCLの直販サイトでの販売価格は、20万8,780円(現在クーポン配布中で18万6,780円で購入可能)となっている。Tiger Lake(Core i7-1065G7)搭載のUH-Xが21万9,780円(クーポン利用時)である。性能は一長一短ではあるが、コストパフォーマンスが高いのは間違いないところだろう。
薄型軽量を追求したモデルであるにも関わらず、充実のインターフェイスや入力環境を兼ね備えており、さらにベンチマークテストでは高い性能、長時間のバッテリ駆動時間も実証した。
顔認証カメラやSDカードスロットがUHS-IIに対応していればなおよかったが、いずれも許容できるものだろう。ビジネスモバイルノートとしての完成度の高さは見事というほかにない。
メモリ8GB、ストレージ256GBという標準構成で、川崎フロンターレ特別モデル以外はカスタムメイドにも対応していないという点は少々残念だが、このあたりはユーザーの声次第でどうとでもなることだろう。
前述したように、Ryzen Mobileは採用例がまだ少なく、採用されていても低価格モデルが中心で、重量も重めの製品が多い。IntelのTiger Lakeと同じ世代の超軽量筐体を搭載した本製品は非常に貴重な存在だ。これをきっかけとして、今後の展開にもおおいに期待したいところだ。
からの記事と詳細 ( Ryzen搭載で約810gの高性能モバイルノート「富士通 UH75/E3」を検証。最新Core i7との性能差などを比較してみた - PC Watch )
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