『プラヴィエクとそのほかの時代』(松籟社) 著者:オルガ・トカルチュク
◆支配者も飲みこむ暮らしの厚み
天使が人々を見守る。死者たちの列が通り過ぎる。森の中を悪い何かがうろつく。けれどもこれは、遠い古代の話ではない。第一次大戦から民主化にいたるポーランドの現代史を、田舎町プラヴィエクの人々が日々見つめ続ける。
中心にあるのはニェビェスキ家とボスキ家で、家族の歴史が一世紀にわたって語られる。だからガルシア・マルケス『百年の孤独』にも近い。もちろん違いはある。マルケス作品に出て来るのはコロンビアの密林だが、本作の森にはたくさんの茸が生えていて、全ては菌糸で繋がっている。
それだけではない。もちろん男性も出てくるものの、強い存在感を示すのは女性たちだ。第二次大戦中、ドイツ軍に占領され、次いでソ連軍のロシア人たちがやってくる。支配者が変わるたびに、ユダヤ人たちは虐殺され、圧倒的な暴力で村全体が廃墟と化す。
それでも女性たちは子どもを産む。女の子なら戦争が終わる徴候だと思う。村人は言う。「みんな娘がほしいわ。もしみながいっせいに女の子を産みはじめたら、世界は平和なのに」
なかでも印象的なのはクウォスカだ。孤児の彼女は裸足で、農作物を盗み、施しを受け、体まで売って生き延びる。村中の人々に蔑まれても、彼女は自分を見下さない。むしろ世界から多くを学びながら、それを自分のなかにしっかり取り入れて成長し続ける。
ナチスの兵士、異国風の顔をしたソ連軍の青年など、村人たちはやって来たすべての人と関わり、感情を交換し、時に愛すら感じる。何年も謎のゲームに興じ続ける領主や、障害で一生働けない男性など、物語の視点は様々な人物に移り変わる。
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March 04, 2020 at 04:00AM
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普通の人々の暮らしは、こんなにも不思議で悲しく、分厚い (2020年3月4日) - エキサイトニュース - エキサイトニュース
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