英語圏では「トウ」ともいわれる「スリップストリーム」。
「スリップに入る」「スリップを出て、抜きにかかる」などのように使われ、F1やスーパーGTなどで、前走車のスリップストリームに入ったマシンが、前走車のわきに出て、一気に追い抜いていくシーンを見ていると、その効果は大きいことがよく分かります。
モータースポーツの世界では、オーバーテイク時に使う技術として昔から使われてきたスリップストリーム現象ですが、レーシングカーでもスポーツカーもない普通のクルマでも、このスリップストリーム現象を利用することは効果的なのでしょうか。
文:吉川賢一、写真:トヨタ、ホンダ、ベストカー編集部
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スリップストリームは普通のクルマでも利くの?答えは「YES」だが…
「スリップストリーム」とは、高速で動いている物体のすぐ後ろに空気圧の低い領域ができる現象のことをいいます。
その領域では、空気の渦によって、後続車が前走車に引き寄せられる様な力が働いているため、前走車の直後を走ることで空気抵抗を少なくし、移動のためのエネルギー損失を抑え、エネルギーを温存することができるのです。
一般車でもこのスリップストリームの効果は「ある」といえます。ただし、様々な条件を満たさないと、リアルワールドの高速道路や一般道では体感できません。
それは、スリップストリームが作られる位置には、前走車のクルマの形状や車速など、様々な条件がそろう必要があるためです。
スリップストリームを使える条件とは?
スリップストリームが起きる条件について、正確に説明するのは非常に難しいので、今回は簡易的に説明します。
ある高速道路上を2台の車が走っているとします。前走車の先端にあたった空気(層流)は、ボディの上側と下側を通過する空気の流れへとなります。
ボディに沿って後ろへと流れた空気は、車両の後端まで行くと、「空気の渦(乱流)」として、ボディから剥離するような動きをします。
その空気の渦は、お互いが複雑に干渉しながら後方へと流れ、この渦が集まる位置の圧力が低くなります。そこに後続車が近づくと、圧力が高い方から低い方に向かって力を発生し、後続車が前走車に引き寄せられるような現象が起きます。
そのため後続車は、空気抵抗にあらがう推進力が少なくて済み、冒頭に紹介したように、恩恵を得ることができるのです。
スリップストリームは、前走車のボディ形状によって、発生する位置や、効果の大きさが変わりますが、例えば、時速300km近くで走るF1やスーパーGTの場合、前走車との距離を1メートル以内まで詰めていくことで、スリップストリームは有益な効果を発揮するようです。
ハトも使う、スリップストリーム
スリップストリームが発生するのはレーシングカーだけに限りません。
例えば、3名で競うスケートのパシュートや、マラソンや陸上の中距離レース、団体自転車レース、海外のSNS投稿で取り上げられていましたが、高速道路上で、スリップストリームを使って高速で飛ぶハトまで確認されています。
いずれも、前走車(者)との距離が短く、タッチすれすれで追従しており、何度も練習を重ねたうえで、衝突するリスクも伴って行われているものです。
そのため、一般道や高速道路において、普段乗っているクルマでスリップストリームの恩恵を受けるのは不可能です。
高速道路走行中は、車速と同じくらいの距離をとることが推奨されています。十分な車間距離をとって、安全に走行することは、何よりも優先されるドライバーの義務です。
まとめ
自動車メーカーは、空力による燃費改善を目的として、膨大な規模の数値計算を行っていますが、シミュレーション技術が進化した現代においても、すべての空気の流れをシミュレーションすることは不可能とされています。
しかしながら、レーシングドライバーやスポーツ選手、そしてハトにおいては、スリップストリームの効果を体感し、活用されています。
スリップストリームは、努力をしてその域にたどり着いたものでないと体感することもその恩恵を受けることもできない技術なのです。
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February 29, 2020 at 07:00AM
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